婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?

初瀬 叶

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第55話

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私は犬も食わなさそうな喧嘩に口を挟むつもりはない。
素知らぬ顔で庭を散歩していると、何故かハロルドが庭へと回って来た。うちの家を我が物顔で歩くのは止めてもらいたい。

彼は私の姿を認めると、満面の笑みを浮かべ早足で近付いて来る。
その勢いに私は思わず後ずさる。


「エリン!帰ってきてたのか!」

……何故、両手を広げながら近付いて来ているのだろう?
そう思っていると、ハロルドがその腕で私を抱き締めようとする。……のを私はヒラリとかわした。

「元気そうですわね、ハロルド様。父の顔を見に帰ってきましたの」

ハロルドは空振りした腕をもて余す様に組んだ。

「伯爵……いや、もう前伯爵か。何はともあれ目を覚ましたのは本当に喜ばしい事だ。……しかし、僕達が旅行中に辺境伯に嫁ぐなんて……水くさいじゃないか」

……何が?別に嫁ぐ前にハロルドに挨拶をしなければならないような道理もない。

「急に決まりましたので……」

「それもおかしな話じゃないか。何故そんな慌てる必要があったんだ?」

私だって不思議だったけれど、レナード様は不安だったと仰って下さったわ。それを思い出すだけで少し温かい気持ちになる。でもそれをハロルドに言うつもりはない。

「そこは私にもよく分かりません。でも恙無く結婚式を終える事が出来ましたし……」
と言う言葉に被せるように、

「ジュードが帰って来る事が分かっていれば、君を手放さなかったのに……」
とハロルドが少し甘さを含んだ声音でそう言った。

……気持ち悪っ!寒くもないのに何故か鳥肌が立ったわ。
それにこの人何を言っているのかしら?お兄様の事なんて、本当は私達の婚約解消には全く関係がないのに。

私が少し首を傾げると、

「あの時は、このストーン伯爵家には君が必要だと思って身を引いたけど……今ならよく分かるよ。君が必要だったのは、僕の方だ」

「はい?何が仰りたいのか理解出来ないのですが……?」

「こうして手放して初めて気がついた。君ほど僕に相応しい女性ヒトはいなかったと」

それは……ナタリーがパトリック伯爵から認められていないから?私なら伯爵様が納得して下さっていたから……という風にしか私には聞こえない。

「あら?私の様な地味で面白みのない女は好みではないのでしょう?私、そこはナタリーの様にはなれませんもの。その点ではハロルド様に相応しいとは思えませんわ」

『その点では』とあえて主張させてもらう。
ナタリーに劣っているとは思いたくない。
確かに私は華やかさも可愛らしさもナタリーに比較すれば足りていないかもしれない。
でも、そんな自分でも大切にしてくれている人がいる。自分を過剰に卑下する事は、その人……レナード様にも失礼だと思える様になった。

「そんな事を言うなよ。僕はナタリーに騙されてたんだ。僕の気を引くために猫を被っていたと言えばいいかな……あんなにワガママだとは思わなかったよ」

……今までも十分、ワガママに振る舞っていたと思うけど。ナタリーのワガママは今に始まったことじゃない。
『痘痕も笑窪』好きな気持がある時には欠点も可愛く思えてしまうものだ。

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