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第58話
しおりを挟む「お姉様!ハロルドと何を話していたの?!」
夕食が不味くなりそうなナタリーの金切り声に思わず眉を顰めてしまう。
それは兄も同じだった様で、
「ナタリー、客の前でそんな声を出すな。食事中だぞ?」
「でも、今日、お姉様は私に隠れてハロルドとコソコソ会っていたのよ?!」
「コソコソなんてしていないわ。庭を散歩していたら、ハロルド様が何故か庭に顔を出したの。挨拶ぐらいはするでしょう?」
私はため息混じりに答えた。
無視しても良かったのだが、なるべく話を早く切り上げて美味しく料理を味わいたい。
それに話の内容がナタリーの愚痴だなんて……流石に言ったら面倒な事になるのが目に見えているのに、言うわけがない。
「嘘!!あの後……お姉様達が庭から屋敷に戻った後、ハロルドに尋ねても、なんだか誤魔化してたわ!!後ろめたい事があるからでしょう?!」
ハロルド……ナタリーの性格なんて、そろそろ理解している筈でしょう!?
「ハロルド様が貴女に何を話したのか知らないけれど、私には何も後ろめたい事はないわ」
私とナタリーの言い合いに、今まで黙っていた母が口を挟む。しかし、その声音には若干の緊張が含まれている様だった。
「ナタリー。少し聞いてちょうだい」
「お母様、邪魔しないで。私は今お姉様とお話してるの!」
「いいえ!貴女は今から話す事を聞かなければいけないの。……心して聞いてね、明日からはもうパトリック伯爵家に行く必要はないわ」
「え?!もうお勉強は終わり?!」
ナタリーの声が弾む。明らかに嬉しそうだ。私としては、自分から話題が逸れた事を喜ばしく思う反面、母の強張った表情が気になった。
「いいえ、違うわ。もう勉強は必要なくなったの。パトリック伯爵から……正式にハロルド様との婚約を白紙に戻したいとお話があったわ」
「は?!何故?!」
ナタリーは食事中のマナーも無視して立ち上がった。
母はそんなナタリーを視線で咎める様に見つめるが、ナタリーには通用しない。
「貴女……パトリック伯爵家のメイドに怪我をさせたの?」
そう静かに母に言われたナタリーは明らかに動揺した。
「け、怪我って……!大した怪我じゃないのよ?それにわざとじゃないわ!!」
「怪我の程度の問題ではないわ。でも貴女が投げた扇が当たって顔に切り傷が出来たって……」
「た、確かに……そうだけど。わざとじゃないの!たまたま……たまたまなの!」
たまたまって……まず、何故扇を投げたりするのか、そこから理解が出来ない。兄も同じ思いだったのだろう。当然の疑問をぶつけた。
「いやいや、何故扇を人に投げつけるって行動になるんだ?伯爵夫人になるべく勉強中のお前が何故?」
「だって……。私には社交性がないから……と夫人が疑似お茶会を開いてくれて……。メイドが招待客役をしてたんだけど、メイドのくせに生意気な口を聞くから……っ!」
「貴族というのは、腹の探り合いよ?招待客役だと言うなら、そのメイドも貴族令嬢を演じていたという事でしょう?それなら、当たり前ではないの?」
母がそう言うのを、私もレナード様も黙って聞いていた。……もう夕食どころじゃない。
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