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第59話
しおりを挟む「でも、たかがメイドのくせに……っ!」
我が家にもメイドはいる。その物言いにどうかと思って私が口を開こうとするのを兄が制して静かに告げた。
「ナタリー、ストーン伯爵家当主として、明日改めて話を聞くが……こちらに過失がある限り期待はするな。それと……たとえ使用人と雇用主という関係があるとはいえ、お前の先程の発言は使用人の尊厳を損なうものだ。一週間、屋敷からの外出を禁ずる」
「そんな!!ハロルドと話も出来ないの?」
「お前が口を出せば、余計に拗れる。僕が話した方が賢明だ」
「酷い!酷すぎるわ!」
ナタリーは乱暴にナプキンを座席に叩きつけると大股で食堂を出て行った。
「ナタリー!!」
お母様が咎めようとするも、もうナタリーは部屋を出ていっている。
もう母もため息をつくしかなくなっていた。
私もレナード様も明日には辺境へと戻る予定なのだが……私、このまま帰ってしまっても良いのかしら?
夕食を楽しむどころではなくなってしまった。
私とレナード様が部屋に戻ると直ぐに、母が部屋を訪ねて来た。
「レナード様……身内の恥を晒してしまって本当に申し訳ありません」
母は深々と頭を下げた。
「頭を上げてください。俺は気にしていない」
私達は一度席に着いて話す事にする。バーバラがお茶を用意してくれたが、それを飲む様な雰囲気でもない程に空気は重々しい。
「今日、パトリック伯爵家から知らせが届いてね……。もちろんまだ白紙には戻されていないのだけど、元々ナタリーはパトリック伯爵に好意的に見られていないから……」
母が話始めた。
「もう……解消は免れないのかしら?」
私の質問に母は
「ほら……貴女がハロルド様が他の女性と会っているのを見た……と言っていたでしょう?あの話をパトリック伯爵にしてみようと思うの。もし……ハロルド様が不誠実な事をなさっているのなら、ナタリーだけに非がある訳ではなくなるでしょう?正直……ハロルド様との婚約を解消してしまったら……ナタリーに良い縁談はもう期待できないわ」
とため息をついた。
確かに……。既にナタリーと歳の頃が合うご子息で婚約者が居ない方を探すのは難しい。
それにナタリーはハロルドとの結婚を決めてすぐに学園も辞めてしまっている。
婚約者がいればそれは問題ないが、これから探すとなれば学園を卒業しているという肩書が欲しい所だ。
「でも……そんな取引をするような真似をしては、パトリック伯爵の気持を逆なでしてしまうのではない?」
私は不安になり、そう母へと尋ねてみるも、
「そうね……でも、もうこれしか手段はないかもしれないの」
と母は項垂れた。
しかし……翌日になって、ここから驚くべき方向へと話は進んでいくのだった。
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