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第66話
しおりを挟む「その通りです。レナード様は私は私で代わりはいないと言って下さいましたから。ハロルド様……前婚約者ですけど、彼と結婚していたら……ずっと自分を誰かと比べたままだったかも知れません」
「ふん。でも結局お前……エリンは、クレイグ辺境伯夫人だ。パトリック伯爵家よりずっと格上。そのハロルドとか言う奴と結婚しなくて良かったってのは、どちらにせよ当てはまる」
「私は嫁ぐまでクレイグ辺境伯夫人になるなんて知りませんでしたよ?クラーク子爵夫人になるとばかり」
「では、レナードが辺境伯を継ぐことを……?」
「はい、知りませんでした。でも私はレナード様と少ない時間でしたが、手紙をやり取りする中で彼の優しさと気遣いに触れる事が出来ました。別に辺境伯だからと、嫁いだ訳ではありません。結果はそうなってしまったので……あまり説得力はないかもしれませんが」
「じゃあ、レナードが子爵になっていても、エリンは結婚していた?」
「もちろんです。最初からそのつもりでした」
今の会話の中で少し引っ掛かりを覚えた私はハリソン様に恐る恐る質問した。
「もしかして……ハリソン様は前の婚約者の方に何か……『子爵は嫌だ』とでも言われたのではないですか?」
ハリソン様は私のその質問に苦虫を噛み潰したような表情になる。きっと答えは『YES』なのだろう。
「ハリソン様……」
私が掛ける言葉を探していると、
「僕は長男だ。普通に考えればクレイグ辺境伯を継ぐものだと思われていてもおかしくはないだろう?だが、結果はこれだ。……彼女は『話が違う』そう言って去っていった」
「では……ハリソン様が断った訳では……」
「誰にも言うな。原因はこの僕。そうしないと……」
「あちらの有責となる。それでハリソン様から断った事に」
私の言葉にハリソン様は小さく頷いた。
「ハリソン様は……その方の事を愛しておられたのですね」
私の言葉にハリソン様は『フッ』と鼻で笑った。
「愛だとか、恋だとか、考えた事もなかった。幼い頃から彼女と結婚するのだと、生涯を共にするのだと言われて、そう信じて生きてきた。それに疑問を持ったことも、嫌だと思った事もない。だが……彼女の隣は居心地が良かったし、彼女も僕と同じ気持ちなのだと思っていた。……滑稽だろ?そう思っていたのは僕だけだった」
そう言って、ハリソン様はまた自嘲気味に笑った。
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