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第71話
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「ハンカチ?あぁ、あれか。あんな物で良ければ君にいくらでもやる」
「いくらでも……と言われましても。あんな見事な刺繍のハンカチ……とても高価な物だと思われますのに」
「ん?別に高くはない。普通のハンカチに刺繍しているだけだ」
「ですから。ハンカチは生地もさることながら、刺繍の良し悪しで値段か変わるものですので」
「では、好きなハンカチを買ってくれば良い。それに君が好む刺繍をしてやろう」
「………………はい?」
「聞こえなかったか?あの刺繍が気に入ったのなら、いくらでも……」
「いや、いや。私が尋ねたいのはそこではなくて……『刺繍をしてやろう』と言いましたか?」
「言ったが?それが何か?」
「刺繍を……誰が刺すのです?」
「俺だが?」
「俺……とは?」
「俺だろ?」
「……………」
一瞬の沈黙が流れた後、
「えぇ??!!もしや、あの刺繍はレナード様が?」
「さっきからそうだと言っている」
「あの細かな刺繍を?レナード様が?」
「あぁ。単なる趣味だ。集中力を高めるのにも役に立つ」
「そ……そうでしたか……」
私は驚き過ぎて口をポカンと開けたまま、何も言えなくなってしまった。……あれを……レナード様が……意外過ぎて未だに飲み込めない。
「どうした?そんなに目を見開いて……乾くぞ?」
そう声をかけられ、私は慌てて口を閉じて、やっと瞬きを一つした。
するとレナード様は少し微笑んで、
「意外か?」
と訊いた。その笑顔がとても優しくて思わず胸がドキドキする。
「……申し訳ありません」
「何故謝る」
とまたレナード様は微笑んだ。
「いえ……。私こそ人を見た目だけで判断していたのだと気付かされました。自分はそんな風に判断され、妹と比べられる事を嫌がっていたのに、随分と私は身勝手なのだと思って……」
「為人を知る前は、その人を判断する材料が少ないのだから仕方ないだろ?俺だってこの見た目で必要以上に怖がられてきた。ただ、大切なのはその先だ」
「その先……」
「見た目だけで判断し、その人の本質を見ようとしない者との付き合いなど、それぐらい……つまり表面上の付き合いで良いという事だ」
「……確かにそうかも知れません。私もそうやって見た目だけで判断していた一人だったのかと思うと……」
私の努力より、私の地味さや真面目さだけを見て私を切り捨てたハロルドを思い出す。私だけが彼に心を砕いたところで、結局お互いが同じ様にその人を知る努力をしなければならないのだ。そんなハロルドと自分が同じだと思うと、今までの自分の行いを恥ずかしく思ってしまう。
「エリンが?君はちゃんと俺を知ろうとしてくれたじゃないか。『仲良くなりたい』と手紙に書いたのは君の本心だろう?」
「もちろんです。でも……」
「俺が刺繍を好む事なんて、そんな話題が出ない限り知る事は出来ない。気にするな」
レナード様はまだ刺しかけのハンカチを見て、
「狼か。うちの家紋だ」
と口にした。
「はい。ですが、狼を本の上でしか知りませんので、昔見た挿絵の毛色を思い出しながら刺しているのですが、なかなか……」
私がそう言うと、
「ふむ。……そろそろ良いだろう。明日、良い所へ連れて行ってやろう」
とレナード様はまた優しげに微笑んだ。
「いくらでも……と言われましても。あんな見事な刺繍のハンカチ……とても高価な物だと思われますのに」
「ん?別に高くはない。普通のハンカチに刺繍しているだけだ」
「ですから。ハンカチは生地もさることながら、刺繍の良し悪しで値段か変わるものですので」
「では、好きなハンカチを買ってくれば良い。それに君が好む刺繍をしてやろう」
「………………はい?」
「聞こえなかったか?あの刺繍が気に入ったのなら、いくらでも……」
「いや、いや。私が尋ねたいのはそこではなくて……『刺繍をしてやろう』と言いましたか?」
「言ったが?それが何か?」
「刺繍を……誰が刺すのです?」
「俺だが?」
「俺……とは?」
「俺だろ?」
「……………」
一瞬の沈黙が流れた後、
「えぇ??!!もしや、あの刺繍はレナード様が?」
「さっきからそうだと言っている」
「あの細かな刺繍を?レナード様が?」
「あぁ。単なる趣味だ。集中力を高めるのにも役に立つ」
「そ……そうでしたか……」
私は驚き過ぎて口をポカンと開けたまま、何も言えなくなってしまった。……あれを……レナード様が……意外過ぎて未だに飲み込めない。
「どうした?そんなに目を見開いて……乾くぞ?」
そう声をかけられ、私は慌てて口を閉じて、やっと瞬きを一つした。
するとレナード様は少し微笑んで、
「意外か?」
と訊いた。その笑顔がとても優しくて思わず胸がドキドキする。
「……申し訳ありません」
「何故謝る」
とまたレナード様は微笑んだ。
「いえ……。私こそ人を見た目だけで判断していたのだと気付かされました。自分はそんな風に判断され、妹と比べられる事を嫌がっていたのに、随分と私は身勝手なのだと思って……」
「為人を知る前は、その人を判断する材料が少ないのだから仕方ないだろ?俺だってこの見た目で必要以上に怖がられてきた。ただ、大切なのはその先だ」
「その先……」
「見た目だけで判断し、その人の本質を見ようとしない者との付き合いなど、それぐらい……つまり表面上の付き合いで良いという事だ」
「……確かにそうかも知れません。私もそうやって見た目だけで判断していた一人だったのかと思うと……」
私の努力より、私の地味さや真面目さだけを見て私を切り捨てたハロルドを思い出す。私だけが彼に心を砕いたところで、結局お互いが同じ様にその人を知る努力をしなければならないのだ。そんなハロルドと自分が同じだと思うと、今までの自分の行いを恥ずかしく思ってしまう。
「エリンが?君はちゃんと俺を知ろうとしてくれたじゃないか。『仲良くなりたい』と手紙に書いたのは君の本心だろう?」
「もちろんです。でも……」
「俺が刺繍を好む事なんて、そんな話題が出ない限り知る事は出来ない。気にするな」
レナード様はまだ刺しかけのハンカチを見て、
「狼か。うちの家紋だ」
と口にした。
「はい。ですが、狼を本の上でしか知りませんので、昔見た挿絵の毛色を思い出しながら刺しているのですが、なかなか……」
私がそう言うと、
「ふむ。……そろそろ良いだろう。明日、良い所へ連れて行ってやろう」
とレナード様はまた優しげに微笑んだ。
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