婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?

初瀬 叶

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第80話

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「へぇ~やっぱり辺境って田舎なだけあって肉とか魚とか美味しいんだぁ~」

テーブルマナーは一応出来ている。出来てはいるが、食事中の会話のマナーが全然だ。

「ナタリー……語尾をあまり伸ばさないで。それにその言い方は失礼にも当たるわ」

「え?!褒めてるのに?」

私はチラリとお義父様の方に視線を向けて、目だけで謝罪する。お義父様は小さく片手で『まぁまぁ』といった風に手を振ると私にウィンクしてみせた。

「口に合ったようで何よりだ」
と言うお義父様に、

ウンウンと頷くだけのナタリーに目眩がした。
ダメだ……そりゃパトリック伯爵に嫌われる筈だ。パトリック伯爵家でマナーや仕来りを学んでいたのではないのか……いやいや、これはうちの実家のせいだ。うるさく言うと癇癪を起こすナタリーを放っておいた私達の罪だ。
……後でお義父様に謝ろう……私がそう心に決めていると、

「うふふふふふ」
と控えめな笑い声が聞こえた。私はその笑い声の主、ミューレ様に目を向ける。
ミューレ様は堪えきれないといった風に笑みをこぼすと、

「ナタリー様はもうすぐご結婚とお聞きしていたのですけど……ご年齢は十歳程でしたかしら?」
と首をコテンと傾げてナタリーを見た。

「な!私は十七歳です!失礼な!」
少しムキになって反論するナタリーにミューレ様は目を丸くした。

「まぁ!!十七歳でしたの……ごめんなさい。十歳なら、その振る舞いも許されるでしょうけど……まさか十七歳だったとは。失礼しました」
謝罪の言葉とは裏腹な微笑みをたたえたミューレ様は、

「エリン様、ナタリー様がご結婚を取りやめるのはご賢明な判断だと私は思いますわ。体だけ成長しましても……ねぇ」
と私にそう語りかけた。

「ちょ!ちょっと!それどういう意味よ!」
とテーブルにバンと手をつき立ち上がったナタリーに、私が

「ナタリー!」
と声を掛ける前に、

「そういう所です。お姉様の婚家に来ての振る舞いとして、それが正しいと思っていますの?
私はエリン様と貴女が姉妹だという事にも信じられない思いです。エリン様は淑女としての振る舞いが完璧でいらっしゃいますのに、同じ姉妹でもこうも違うものかと」
とミューレ様はナタリーに厳しい視線を向けた。

「なっ……!貴女に何がわかるのよ!元々お姉様は出来が良かったの。
大して苦労せずに、お母様にもお父様にも褒められて。
それに、本当なら私が此処に嫁ぐ筈だったのを横取りしたのよ?!何も知らない人が、勝手な事言わないで!」

私は驚きすぎて声も出なかった。『横取りした』とは?自分がハロルドとの結婚を決めたのに横取り?
すると、隣から

「エリンに謝れ」
とレナード様の低い声が聞こえた。
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