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第85話
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「汗が……」
「思い切り走ったからな。君の手が汚れる」
レナード様の汗が私の指先に触れる。彼は私のその手を取ると、指先に口づけた。
「……しょっぱい」
と顔を顰めるレナード様に笑いが込み上げてきた。
「汗ですもの、当たり前ですわ。こんなに汗をかいて……そんなに焦らなくとも……」
「焦るに決まってるさ。君のあんな顔を見たら」
「あんな遠くからでしたのに、よく私の表情までご覧になれましたわね。……そんなに酷い顔をしていましたか?」
「目は良いからな。……俺は君を傷つける様な事はしない。決して」
「信じてはいるのです。……でもどうしても昔の事が思い出されて……」
「前の婚約者の事は、そんな昔の事じゃない。不可抗力とは言え、不快な思いをさせた」
レナード様はそう言って頭を下げた。
「謝らないで下さい。……私のくだらない嫉妬ですから」
「いや。それでも君が少しでも不快な気持ちになる事を考えれば軽率だった。すまない。……だが」
そう言ったレナード様は少し微笑んだかと思うと、
「嫉妬される……という経験は初めてだが、なかなか良いものだ」
と頬を染めた。
「もう!……こちらは良い気分ではありませんのに」
私が少し膨れると、レナード様はまた『悪い、悪い』と謝りながらも、緩む頬を隠すことは出来なかった。
「レナード様、ニヤついておりますよ?」
「フフ。いや……何だか嬉しくて」
とレナード様は大きな掌でニヤつく口元を隠した。
「何が嬉しいんです?」
「だって……それはエリンが俺を好きだと言う事だろう?違うか?」
口を尖らせた私の顔を覗き込む様に、レナード様は殊更体を低くした。
「……違いません。でも、言葉を口にされるのは……少し照れます」
恥ずかしくなって俯く私の顔をレナード様はそっと持ち上げると、私に優しく口づけた。
「恥ずかしがる君も、とても可愛いな」
「………。レナード様が甘すぎます」
そう言った私に、レナード様はもう一度優しく口づけた。
恥ずかしさのあまり、私は顔を見られたくなくて、レナード様の胸に飛び込む様に顔を隠した。
そんな私をレナード様は優しく抱きしめる。
「……ところで、ナタリーは屋敷へ戻りましたでしょうか?」
私はふと気になってそうレナード様に問うと、
「あ……忘れていた。あのまま放置して来てしまった」
と少し間抜けな声でレナード様は答えた。
私達はナタリーがまた脱走を図ってはいないかと、慌てて二人で先ほどの場所へと急いだが、そこには門番と押し問答をするナタリーの姿があったのだった。
「思い切り走ったからな。君の手が汚れる」
レナード様の汗が私の指先に触れる。彼は私のその手を取ると、指先に口づけた。
「……しょっぱい」
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「汗ですもの、当たり前ですわ。こんなに汗をかいて……そんなに焦らなくとも……」
「焦るに決まってるさ。君のあんな顔を見たら」
「あんな遠くからでしたのに、よく私の表情までご覧になれましたわね。……そんなに酷い顔をしていましたか?」
「目は良いからな。……俺は君を傷つける様な事はしない。決して」
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「前の婚約者の事は、そんな昔の事じゃない。不可抗力とは言え、不快な思いをさせた」
レナード様はそう言って頭を下げた。
「謝らないで下さい。……私のくだらない嫉妬ですから」
「いや。それでも君が少しでも不快な気持ちになる事を考えれば軽率だった。すまない。……だが」
そう言ったレナード様は少し微笑んだかと思うと、
「嫉妬される……という経験は初めてだが、なかなか良いものだ」
と頬を染めた。
「もう!……こちらは良い気分ではありませんのに」
私が少し膨れると、レナード様はまた『悪い、悪い』と謝りながらも、緩む頬を隠すことは出来なかった。
「レナード様、ニヤついておりますよ?」
「フフ。いや……何だか嬉しくて」
とレナード様は大きな掌でニヤつく口元を隠した。
「何が嬉しいんです?」
「だって……それはエリンが俺を好きだと言う事だろう?違うか?」
口を尖らせた私の顔を覗き込む様に、レナード様は殊更体を低くした。
「……違いません。でも、言葉を口にされるのは……少し照れます」
恥ずかしくなって俯く私の顔をレナード様はそっと持ち上げると、私に優しく口づけた。
「恥ずかしがる君も、とても可愛いな」
「………。レナード様が甘すぎます」
そう言った私に、レナード様はもう一度優しく口づけた。
恥ずかしさのあまり、私は顔を見られたくなくて、レナード様の胸に飛び込む様に顔を隠した。
そんな私をレナード様は優しく抱きしめる。
「……ところで、ナタリーは屋敷へ戻りましたでしょうか?」
私はふと気になってそうレナード様に問うと、
「あ……忘れていた。あのまま放置して来てしまった」
と少し間抜けな声でレナード様は答えた。
私達はナタリーがまた脱走を図ってはいないかと、慌てて二人で先ほどの場所へと急いだが、そこには門番と押し問答をするナタリーの姿があったのだった。
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