婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?

初瀬 叶

文字の大きさ
88 / 121

第88話

しおりを挟む
「バーバラっていつもお姉様の味方ね。そんなんだから結婚出来ないのよ」

……私の味方をする事とバーバラが独身な事と、何が関係あるのか……と言いたくなったが、辺境の地まで付いてきて貰った事でバーバラがますます縁遠くなっているのかもしれない……と思うと私も何も言えなくなってしまう。すると……

「お言葉ですが、私にも結婚を考えている方ぐらいおります!!」
と言うバーバラの言葉に、

「え?!バーバラ、お付き合いしている方が居るの?!知らなかったわ!どなたなの?」
と私は素直に喜びの声を上げた。今はナタリーがハロルドを誘惑していたことなんて、頭の中からすっかり消え失せた。

バーバラは顔を赤くしながら、

「……庭師のトミーです……」
と小さな声で相手の名前を告げた。

「トミー?まぁ!全然知らなかったわ。え?いつからお付き合いを?」

ついつい好奇心から尋ねてしまう。

「辺境伯領に着いて少しして……。奥様のお部屋に飾るお花の相談に乗っていただいていて仲良くなりました……」
恥ずかしいのか、消え入りそうな声でそう言うバーバラが可愛らしい。

「トミーは真面目で優しいもの。二人お似合いよ」
私は日焼けした顔に、白い歯を見せて笑うトミーの顔を思い出していた。
彼はバーバラより少し歳下だが、とても真面目でレナード様も褒めていらした。私は姉のようなバーバラの幸せに心から喜んでいた。

しかし、それを面白くないと思う人間が一名……。

「ふん!!馬鹿馬鹿しい。庭師?そんな人と結婚したって、贅沢も出来ないし、一生働き続けなきゃいけないのよ?それじゃあ、何の為に結婚するのよ」
そう言ったナタリーに私は

「ナタリー……。楽をする為に結婚するわけではないのよ?貴族には貴族の、平民には平民の役割がある。それは結婚しても変わらないわ」

逆に結婚してからの方がやるべき事が多くなるのだけど、ナタリーはそれすら理解していないのかしら?

「辺境伯に嫁いだ人にそんな事を言われても、何とも思わないわ。結局、何にもしなくても贅沢出来る人に何を言われても響かない」

「ナタリー、貴女、結婚したら何もしなくても貴族は贅沢が出来るとでも思っているの?」

「領地を経営したりするのって旦那さんの仕事じゃない。私達女性は、お茶会開いたり、夜会に参加したりすれば良いだけでしょう?まぁ、貧乏な貴族に嫁いだらそうはいかないかもしれないけど、私は伯爵令嬢よ?それ以下の家に嫁ぐ気ないもの」
そう言ったナタリーはプイッと横を向いた。私はナタリーの綺麗な横顔を眺めながら、どうしてこんな娘になってしまったのだろう……と不思議に思っていた。

「ナタリー様……。私は一生奥様に仕えるつもりですし、トミーだって体が動く限り庭師としてグレイグ辺境伯にお仕えするつもりです。もちろん歳を取って仕事が出来なくなる時は来るでしょうが、それまでは一生懸命働きます。しかし、それは私達にとっては『生きる事』なのです。お金を稼ぐ手段である事は間違いありません。でもそれと同じぐらいに仕事を生き甲斐としています。決してそれは不幸せな事ではありません」

バーバラの言葉にナタリーはこちらに視線を寄越すと、

「そんなの口だけよ。皆、楽して贅沢したい。当たり前じゃない。綺麗事を並べたって白々しいとしか思えないわ」
とバーバラを馬鹿にした様にそう言った。

ストーン伯爵家は特別裕福という訳ではないが、決してお金に困った事はない。ナタリーがここまでお金に執着する理由が私にはさっぱり分からなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

あなたに未練などありません

風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」 初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。 わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。 数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。 そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

処理中です...