婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?

初瀬 叶

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第91話

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「ナタリーはお前の嫌がる事をしたいんだよ」
兄の言葉に、

「そのようね。大嫌いだと言われたわ。私、ナタリーに嫌われる様な事、何かしたかしら?」
私は首を傾げた。

「お前は別に何にも。強いていうなら真面目にコツコツ勉強して、両親に迷惑をかけない様に頑張っていただけだ。姉だからと色々と我慢する事も多かったしな。……そこは僕にも心当たりがある。僕は逃げ出したがお前は逃げなかった」
と兄は苦笑するが、それが全ての発端であるのだから、笑い事ではない。……まぁ、そのお陰で私はレナード様と結婚出来たのだからそれは感謝しているが。

「ナタリーはお前が『何もしていない』と思ってるんだよ。見てない事は無かった事になってるんだ。ナタリーは可愛かったから、チヤホヤされていたが、周りから褒められるのは結局お前だったから。だから『何にもしていないくせに褒められるエリン』が嫌いだったんだろ」

「お兄様……ナタリーが私を嫌っていた事、知っていたのね」

「あぁ。まぁ、子どもの頃だけの話かと思っていたんだ。まさか、こんな歳までそれを引きずっているとは思ってなかった。案外しつこいな、ナタリーも」
と、また兄は笑う。今度こそ、私は笑い事じゃないのに……と口を尖らせた。

「悪い、悪い。とにかく!あいつの事はハロルドに押し付けるさ。もう僕の手には負えないからな。あと少しの辛抱だ」
大袈裟に肩を竦める兄に、

「無事に結婚式が終わる事を祈ってるわ」

「あぁ。僕もだ。ナタリーを嫁にやらないと、僕がおちおちと結婚出来ない」

「そうね。ミネルバをあまり待たせすぎないでよ?また婚約者に逃げられるのはみっともないわ」
私がそう言って笑えば、

「違いない。今度こそ逃げられない様にしっかりと捕まえておくよ。……エリン、お前は今まで本当に頑張ってくれた。もう安心してレナード様に幸せにしてもらえよ」
と兄は私の頭をポンポンと軽く撫でた。


その日の夜遅く、レナード様が王都へとやって来た。

「エリン!会いたかった!!」
と私を抱き締めようとするレナード様に、

「旦那様!せめてお着替えをされてからにして下さい!」
とバーバラが割って入った。

「バ、バーバラ……」
埃だらけの自分の姿を見下ろしながら、後退るレナード様に笑いが溢れる。

「レナード様、先に湯浴みをされてはいかがです?お腹は減っていませんか?」

「あ……あぁ。そうしよう。そうだな、もう夜も遅いから軽めに食べるとしよう。……エ、エリン…その……俺の食事が終わるまで……」
モジモジするレナード様に、

「私もレナード様とご一緒しても?夕食はたくさん頂いたのですが、喉が渇きました」
と私が微笑めば、レナード様も嬉しそうに口角を上げた。
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