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第96話
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パトリック伯爵の屋敷へと足を踏み入れると、
「あいつはどこへ言ったんだ!!早く連れてこい!」
という伯爵の怒鳴り声が聞こえた。
「だ、旦那様!これが奥様のお部屋に……!」
とメイドが手紙の様なものを手に伯爵へと走り寄った。
その様子を私とミネルバは目を丸くして見ていた。レナード様が大股で私に近寄る
「パトリック伯爵夫人は外か……?」
と尋ねるレナード様の声と、
「はぁ?!これはどういう事だ?!」
と声を上げたパトリック伯爵の言葉が重なった。
「レナード様……何か?」
と尋ねる私の声をかき消す様に、
「直ぐに連れ戻せ!!探してこい!!」
とパトリック伯爵が使用人に指示を出す。
伯爵と話していた執事が早足でこちらに近づいて、
「今日の所はお帰り下さい。今後の事は追ってお知らせいたします」
と私達に頭を下げた。
「今後のこと……」
不穏な言葉に思わず私は眉を顰めた。
一応、私の実家へと戻った私達は、パトリック伯爵家に残ってまだ話し合いをしている兄が帰って来るのを応接室で待っていた。
「ナタリーはどうだった?」
「『もう離縁する!!』と言って大変だったけど、何とか宥めて置いてきたわ。もう結婚した身だし、連れ帰る訳にはいかないもの」
私の質問に答える母の声は暗い。大勢の前であんな事をしでかしたのだ。大変な事になるのは目に見えていた。
「ただいま……」
重苦しい空気の中、兄が応接室へとこれ以上ない程に疲れた表情で入って来た。
「おかえりなさい」
どうなったのか直ぐにでも聞いてみたいが、兄の言葉を待つ。
兄は徐ろに椅子に腰掛けると、足を擦った。痛むのだろうか?ミネルバが心配そうに側に寄り添う。
「ハロルドとナタリーだが、このままパトリック伯爵家で暮らす。婚姻関係は継続だ。
だが、今回の失態はどうせ社交界で面白おかしく噂されるだろうから、一年は夜会もお茶会もなしだ。正直、僕達もそしてクレイグ辺境伯となるレナード様にも、色々と言う者が出るかもしれない。すまない」
そこまで一気に言うと兄はレナード様へと頭を下げた。私や兄は身内の恥だから我慢出来るが、レナード様は関係ないのにと思うと、私も申し訳なさを感じた。
「気にするな。俺も社交は苦手だ。そんなに貴族と喋る機会もない。それにエリンは俺が守る。心配するな」
「そう言って貰えて正直ホッとします。今回は愚かな妹のせいで本当にすまなかった」
「私の育て方が悪かったのよ。本当にごめんなさい」
兄も母も頭を下げる。レナード様は困った様に
「謝る必要はない」
と言葉少なにそう言った。
「それと……ナタリーから暴行を受けた踊り子だが、ハロルドが随分と贔屓にしていたらしい」
「それって……ハロルド様が浮気していたって事?」
兄の言葉にミネルバが反応する。
「さぁ?はっきりとは認めなかったが、パトロンとでも言うのかな?どちらにせよ、ナタリーはそういう所でプライドが高い。帰りにナタリーとも話をしたが、ハロルドを許さないと言っていたよ」
と兄は頭を抱えた。
「あの余興……。あれを計画したのはハロルド様なの?」
もしそうなら、ハロルドが愚かだとしか思えない。自分の浮気相手を結婚式の余興に呼ぶなど。
そう質問した私に兄は顔を上げて
「いや。あの余興について、伯爵もハロルドも全く知らなかった。あの時間は演奏会の予定だったと。あれを計画したのは伯爵夫人だ。そして伯爵夫人は今、行方不明だ」
そう答えた。
「あいつはどこへ言ったんだ!!早く連れてこい!」
という伯爵の怒鳴り声が聞こえた。
「だ、旦那様!これが奥様のお部屋に……!」
とメイドが手紙の様なものを手に伯爵へと走り寄った。
その様子を私とミネルバは目を丸くして見ていた。レナード様が大股で私に近寄る
「パトリック伯爵夫人は外か……?」
と尋ねるレナード様の声と、
「はぁ?!これはどういう事だ?!」
と声を上げたパトリック伯爵の言葉が重なった。
「レナード様……何か?」
と尋ねる私の声をかき消す様に、
「直ぐに連れ戻せ!!探してこい!!」
とパトリック伯爵が使用人に指示を出す。
伯爵と話していた執事が早足でこちらに近づいて、
「今日の所はお帰り下さい。今後の事は追ってお知らせいたします」
と私達に頭を下げた。
「今後のこと……」
不穏な言葉に思わず私は眉を顰めた。
一応、私の実家へと戻った私達は、パトリック伯爵家に残ってまだ話し合いをしている兄が帰って来るのを応接室で待っていた。
「ナタリーはどうだった?」
「『もう離縁する!!』と言って大変だったけど、何とか宥めて置いてきたわ。もう結婚した身だし、連れ帰る訳にはいかないもの」
私の質問に答える母の声は暗い。大勢の前であんな事をしでかしたのだ。大変な事になるのは目に見えていた。
「ただいま……」
重苦しい空気の中、兄が応接室へとこれ以上ない程に疲れた表情で入って来た。
「おかえりなさい」
どうなったのか直ぐにでも聞いてみたいが、兄の言葉を待つ。
兄は徐ろに椅子に腰掛けると、足を擦った。痛むのだろうか?ミネルバが心配そうに側に寄り添う。
「ハロルドとナタリーだが、このままパトリック伯爵家で暮らす。婚姻関係は継続だ。
だが、今回の失態はどうせ社交界で面白おかしく噂されるだろうから、一年は夜会もお茶会もなしだ。正直、僕達もそしてクレイグ辺境伯となるレナード様にも、色々と言う者が出るかもしれない。すまない」
そこまで一気に言うと兄はレナード様へと頭を下げた。私や兄は身内の恥だから我慢出来るが、レナード様は関係ないのにと思うと、私も申し訳なさを感じた。
「気にするな。俺も社交は苦手だ。そんなに貴族と喋る機会もない。それにエリンは俺が守る。心配するな」
「そう言って貰えて正直ホッとします。今回は愚かな妹のせいで本当にすまなかった」
「私の育て方が悪かったのよ。本当にごめんなさい」
兄も母も頭を下げる。レナード様は困った様に
「謝る必要はない」
と言葉少なにそう言った。
「それと……ナタリーから暴行を受けた踊り子だが、ハロルドが随分と贔屓にしていたらしい」
「それって……ハロルド様が浮気していたって事?」
兄の言葉にミネルバが反応する。
「さぁ?はっきりとは認めなかったが、パトロンとでも言うのかな?どちらにせよ、ナタリーはそういう所でプライドが高い。帰りにナタリーとも話をしたが、ハロルドを許さないと言っていたよ」
と兄は頭を抱えた。
「あの余興……。あれを計画したのはハロルド様なの?」
もしそうなら、ハロルドが愚かだとしか思えない。自分の浮気相手を結婚式の余興に呼ぶなど。
そう質問した私に兄は顔を上げて
「いや。あの余興について、伯爵もハロルドも全く知らなかった。あの時間は演奏会の予定だったと。あれを計画したのは伯爵夫人だ。そして伯爵夫人は今、行方不明だ」
そう答えた。
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