97 / 121
第97話
しおりを挟む「どうりで伯爵夫人が屋敷の中に見当たらなかった筈だ」
レナード様は頷く。そう言えば、見かけたか?と尋ねられた事を思い出した。
「夫人の部屋に書き置きが置かれていた。……正直それを見せてくれとは言えなかったが、執事との会話で何となくわかった事は、あの余興は夫人が仕組んだものだという事。ナタリーの性格を見越して結婚式をぶち壊したかったらしい」
兄の言葉に母は、
「そんなにナタリーは嫌われていたのね……」
と俯いた。
「まぁ、ナタリーが嫌われていた事は間違いない。だが……」
そこで言葉を切った兄は私をチラリと見て
「エリンと自分を重ねていた様だ」
と続きの言葉を口にした。
「私と?」
「らしい……としか言えんが……すまん、それ以上の事はわからん。だが、パトリック伯爵家が嫌になって飛び出した事は確かな様だ」
と兄が言えば、母は目を丸くした。
「あの人がそんな事をするなんて……学生の頃から大人しくて……誰かに逆らうなんて考えられないのだけど」
学園で一緒だった母は夫人のそんな姿を想像できない様だった。
結局、私とレナード様は夜遅くに王都のクレイグ伯爵邸に戻って来た。『泊まったら?』と言う母の顔に疲労の色が濃く見えた為、これ以上厄介になるのは遠慮しよう……というレナード様の意見に私も同意した。
二人で寝台に横になると、私は自然とため息を吐いた。
「疲れたか」
「はい……さすがに。パトリック伯爵から……何か要求されるでしょうか?」
ナタリーのやった事は許されない。損害を支払えと言われても仕方ない。
「どうかな。パトリック伯爵家も金に困っているわけではないだろうが……ただ、どちらにもこの縁談はあまり有益ではなさそうだな。ジュード殿も、ストーン伯爵家の有責でも良いから婚約解消して貰えば良かったと後悔していた」
「でも……ナタリーはその……ハロルド様と……」
「初婚の相手には純潔も大切だろうが、気にしない者もいる」
「まさか……兄はナタリーを誰かの後妻にと?」
「いや……それも含め考えていれば良かったと後悔を」
驚いた。兄がナタリーに厳しい目を持っていたのは、この前の家出騒動での対応をみても理解していたが、そこまでとは……。
「無理矢理、王都に連れ帰らない方が良かったのでしょうか?結果レナード様にまで迷惑をかける事に……」
そう言う私をレナード様は抱き寄せた。
「気にするなと言っただろう?これでも王族の血を引く者だ。黙らせる事ぐらい可能だ」
「レナード様がそんな事を言うとは思っていませんでした」
王族の血を引く事をひけらかしたりしないレナード様が、それを口にする事を珍しく思っていると、
「たまには特権を使わなきゃな。腐る」
とレナード様は口角を上げた。
「冗談を言うレナード様を初めて見ました」
そう言って私が笑えば、
「愛しい妻の曇った表情が晴れるのなら、冗談の一つや二つ言ってみせるさ」
と抱きしめた私の額に口づけをした。
レナード様との会話で心が少し軽くなった私は、日中の疲れも相まって、いつの間にか眠りについていた。
1,711
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
あなたに未練などありません
風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」
初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。
わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。
数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。
そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる