婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?

初瀬 叶

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第97話

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「どうりで伯爵夫人が屋敷の中に見当たらなかった筈だ」
レナード様は頷く。そう言えば、見かけたか?と尋ねられた事を思い出した。

「夫人の部屋に書き置きが置かれていた。……正直それを見せてくれとは言えなかったが、執事との会話で何となくわかった事は、あの余興は夫人が仕組んだものだという事。ナタリーの性格を見越して結婚式をぶち壊したかったらしい」
兄の言葉に母は、

「そんなにナタリーは嫌われていたのね……」
と俯いた。

「まぁ、ナタリーが嫌われていた事は間違いない。だが……」
そこで言葉を切った兄は私をチラリと見て

「エリンと自分を重ねていた様だ」
と続きの言葉を口にした。

「私と?」

「らしい……としか言えんが……すまん、それ以上の事はわからん。だが、パトリック伯爵家が嫌になって飛び出した事は確かな様だ」
と兄が言えば、母は目を丸くした。

「あの人がそんな事をするなんて……学生の頃から大人しくて……誰かに逆らうなんて考えられないのだけど」
学園で一緒だった母は夫人のそんな姿を想像できない様だった。


結局、私とレナード様は夜遅くに王都のクレイグ伯爵邸に戻って来た。『泊まったら?』と言う母の顔に疲労の色が濃く見えた為、これ以上厄介になるのは遠慮しよう……というレナード様の意見に私も同意した。

二人で寝台に横になると、私は自然とため息を吐いた。

「疲れたか」

「はい……さすがに。パトリック伯爵から……何か要求されるでしょうか?」
ナタリーのやった事は許されない。損害を支払えと言われても仕方ない。

「どうかな。パトリック伯爵家も金に困っているわけではないだろうが……ただ、どちらにもこの縁談はあまり有益ではなさそうだな。ジュード殿も、ストーン伯爵家の有責でも良いから婚約解消して貰えば良かったと後悔していた」

「でも……ナタリーはその……ハロルド様と……」

「初婚の相手には純潔も大切だろうが、気にしない者もいる」

「まさか……兄はナタリーを誰かの後妻にと?」

「いや……それも含め考えていれば良かったと後悔を」

驚いた。兄がナタリーに厳しい目を持っていたのは、この前の家出騒動での対応をみても理解していたが、そこまでとは……。

「無理矢理、王都に連れ帰らない方が良かったのでしょうか?結果レナード様にまで迷惑をかける事に……」
そう言う私をレナード様は抱き寄せた。

「気にするなと言っただろう?これでも王族の血を引く者だ。黙らせる事ぐらい可能だ」

「レナード様がそんな事を言うとは思っていませんでした」

王族の血を引く事をひけらかしたりしないレナード様が、それを口にする事を珍しく思っていると、

「たまには特権を使わなきゃな。腐る」
とレナード様は口角を上げた。

「冗談を言うレナード様を初めて見ました」
そう言って私が笑えば、

「愛しい妻の曇った表情が晴れるのなら、冗談の一つや二つ言ってみせるさ」
と抱きしめた私の額に口づけをした。

レナード様との会話で心が少し軽くなった私は、日中の疲れも相まって、いつの間にか眠りについていた。

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