婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?

初瀬 叶

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第98話

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私とレナード様はそれから三日をかけ辺境伯領へと馬車で戻った。

ナタリーの事、ハロルドの事、そして行方不明となったパトリック伯爵夫人の事。心配は尽きないが私が王都にいた所で何の助けにもならない。
それにもうすぐレナード様のクレイグ辺境伯の譲位式が行われる……その準備も大詰めだ。


数日が経ち、兄から手紙が届いた。パトリック伯爵がハロルドに伯爵位を譲る事になったと。

「まさかパトリック伯爵がそんなに落ち込まれているなんて、思いもよりませんでした」
そう言う私にレナード様は、

「夫婦の事は本人達にしか分からない。だが、本人達もお互いの気持ちを知る術はなかったのかもしれないな」
と私から渡された兄の手紙を読みながらそう言った。

パトリック伯爵は厳格で夫人にも厳しい一面があった。私もパトリック伯爵家に嫁ぐ心構えを夫人からくどいくらいに教え込まれたものだ。

夫人はずっと……逃げたかったのかもしれない。

しかしパトリック伯爵は夫人が居なくなった事で、二十程老けてしまったようだと兄の手紙には書いてあった。心労が祟って今では床に臥せっているという。

「伯爵夫妻の気持ちはすれ違ったまま……という事ですね」

「俺も態度で示していればそれで良いと思っていたが、言葉にする事が大切なのだと心からそう思ったよ。これからはきちんと気持ちを言葉で表すことにしよう」
と決意を新たにするレナード様に、

「レナード様は、ちゃんと言葉にしてくださっています。きちんと伝わっていますよ」
と微笑めば

「そうか……。無意識だったが、俺がそうなれたのはきっと君のお陰だな」
とレナード様も表情を柔らかくした。

それからは譲位式の準備等で忙しく、実家の事は気になりつつも、頭の片隅に追いやられてしまっていた。


式典は騎士団の団員の皆様が見守る中、大々的に執り行われた。皆が温かくレナード様を団長として迎える。

「「おめでとうございます」」
という祝福の声が、揃って聞こえる。私もその様子に思わず笑顔になった。……が、今日から辺境伯夫人……。そう思うと、途端に緊張で胃が痛む。
そして何より胃が痛む存在が……


「レナード!おめでとう!!」

「殿下……お忍びでこんな所まで来ないでください」

満面の笑みでレナード様に抱きつこうとする殿下をレナード様は手を伸ばして遮った。
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