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第99話
しおりを挟む「いや~相変わらず美味いなぁ、ここの食事は」
式典が終わり、晴れてレナード様はクレイグ辺境伯となった。
お義父様とハリソン様と……皆で揃って食べる最後の晩餐……と思っていたのだが、何故か喜んで一番たくさん召し上がっているのは王太子殿下だった。
「何で此処に泊まるんだ?」
「宿をとるとなったら、貸し切りにしなきゃならないとか、警備のし易い宿を選ばなきゃならないとか、その他諸々準備が大変だろう?それじゃあお忍びにならないじゃないか。今回は王太子としてではなく、お前の従兄弟として祝いに来たかったんだ。……うん、美味い」
「喋るか食べるかどちらかにしろ」
王太子殿下って……本当にレナード様の事が好きなのね。レナード様の顔は渋いけど。
ハリソン様は二人の会話を微笑みながら見ている。殿下にとってはハリソン様も従兄弟だ。しかしあまり二人は話をしている様子がない。
「アレクサンダー、お前は相変わらずだな。王位を継ぐのはまだ先だろうが、もう少し落ち着いたらどうだ?」
笑いながらお義父様が言う。
「大丈夫ですよ。時と場所は考えて振る舞っていますから。私がはしゃぐのはレナードの前だけです」
殿下は少しドヤ顔でそう言った。その様子がおかしくて私はクスリと笑ってしまった。
すると、私の向かいに座っているハリソン様もクスリと笑っているのが視界に入った。
「お!ハリソンが笑ってる!!珍しいな」
私と同じ様にハリソン様の笑顔に気付いた殿下が声を上げた。
「そうか?僕だってたまには笑う」
ハリソン様は笑顔のままそう答えた。
最近のハリソン様の笑顔は『たまに』ではなく『常に』なのだが。……特にミューレ様の隣では。
「ハリソン、お前なんだか雰囲気が柔らかくなったよな。そういえばお前はいつから子爵を名乗るんだ?」
「明日から子爵領に移るつもりだが、子爵を賜るのは半年後の予定だ。結婚式も含めな」
「そうか。たしかエドモンド伯爵のご令嬢だったな。エドモンド伯爵は堅実な人柄だ。良い関係を築けるだろう」
「あぁ。とても人格者だ。会って何度か話をしたが、凄く真摯に領地を治める事に向き合っていると感じた。勉強になるよ」
ハリソン様と殿下の仲が悪いというような事はないようだ。
ただレナード様と喋る時より、殿下が王太子殿下然として感じる。確かに殿下がはしゃぐのはレナード様と絡む時だけの様だった。
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