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第100話
しおりを挟む「おっと、そう言えば……」
そう言った殿下は私に微笑んで言った。
「色々とあったみたいだな。メイリンが言っていたよ」
「……妹の件でしょうか?」
「結婚式で王都に来ていたなら、城へ寄ってくれたらいいのに」
私の言葉には小さく頷くだけで、そう言って殿下は口を尖らせた。
王宮ってそんな気まぐれに寄る様な場所だったかしら?
だけど、ナタリーの件は既に王太子妃の耳に入る事となっている様で、私の表情は暗くなった。
「エリンには関係ない事だ」
レナード様の答えに、
「その通り!奥方には何も関係ないよ。噂になっているが程なくそれも終わる」
殿下はニッと口角を上げた。
「……何をした?」
レナード様の問いに殿下は答える。
「男女の事に首を突っ込む様な噂話が好きな者はどんなに偉そうにしていても程度が知れる……そう私は口を滑らせただけだ。そう言えばメイリンも公務復帰のお茶会でそう洩らした様だが」
「……すまないな。気を使わせた」
レナード様の言葉に
「ありがとうございます。お心遣いに感謝申し上げます」
と私も頭を下げた。
「いいって!そんな事気にするな。……そうだなぁ~今度王都に来る際には必ず城へ顔を出すこと。お!なんなら必ず城へ泊まる……それも付け加えておこう。それで私は十分だ」
にっこり笑う殿下に引き換え、レナード様は眉間に皺を寄せたが、
「……わかった。エリンも一緒ならば」
そう諦めた様に頷いた。
「そうか!なら約束だ!」
と殿下は嬉しそうに手を叩いて喜びを素直に表した。
「お疲れ様でした」
寝室に顔を出したレナード様に私は声を掛けた。
「剣の相手をしろと煩くてな。祝いに来たのなら大人しく『おめでとう』というだけで良いだろうに」
「お義父様もハリソン様もご一緒だったとか」
「あぁ。久しぶりに二人とも手合わせしたよ。父はまだまだ現役でやれると思うがな。兄も……意外にも良い太刀筋だった」
そう言ったレナード様の顔は嬉しそうだった。
「寂しくなります」
明日になればハリソン様はクラーク子爵領へ、お義父様はここから馬で三十分程離れた別宅へと移り住む。
正直言うと、とても寂しい。二人は私を家族として迎えてくれた。ハリソン様は少し時間がかかったが。
そして私はふと思う。
今はレナード様がいつも側に居てくれているが、辺境の地で戦が起きたら?辺境伯騎士団が戦いに向かわなければならない状況になったら?
私がこの屋敷を守っていかなければならない。そう思うと寂しくもあり、不安でもある。
表情にそれが表れていたのか、
「今は他の国とも小競り合いもないし、俺が出ていかなきゃならない事柄もない。……ずっと側に居る」
そう言ってレナード様は私を抱きしめた。
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