婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?

初瀬 叶

文字の大きさ
114 / 121

第114話

しおりを挟む
「ふぅ……」
ダンスも踊っていないのに、疲れてしまった。本格的な社交は初めてだが、華麗な社交界も実は体力勝負なのかもしれない。

長椅子でくつろぐ私の前に影が出来た。

「エリン」
この声……私はその声の主を確かめる為顔を上げる。

「あら……パトリック伯爵ではないですか。こんばんは」
聞き覚えのある声は私が思った通りの人物だった。
しかし、彼の顔は何故かとても疲れて見える。そして、不思議な事に彼は一人だった。

私が慌てて立とうとするのを、ハロルド様は手で制した。

「座ったままで構わないよ。直ぐに話は終わるから」
その口ぶりから、私に話があって近付いたのだとわかる。

「お話……ですか?」

「うん。なかなか君が一人にならないから、どうしようかと思ったが、こんな所でもないと君と話す事が出来ないと思ってね」

周りの貴族が私達に気付き、何となく遠巻きに様子を窺っているのが分かる。
考えてみれば、奇妙な取り合わせだろう。元婚約者で、今は離縁された元妻の姉。離縁の原因は皆の知る所であろう事は容易に想像出来るが、私が辺境伯夫人とあっては、あからさまにその事を尋ねて来る強者は今の所見当たらない。

「主人に聞かせられない様なお話なら、ご遠慮いたします」
私が一人になるのを待っていたと暗に言われてしまっては、今から聞く話が楽しいものだとは到底思えなかった。

「手短に。エリン……本当に君には申し訳ない事をした。今、僕が君を手離した事をどれだけ後悔しても、もう手遅れだとは分かっているが、それでも、君に謝りたくて」
ハロルド様はそう言って頭を下げた。周りがざわつく。貴族はそうそう簡単に頭を下げない。特にパトリック伯爵家はプライドが高くて有名だ。そんな家の当主が頭を下げた事で、周りの目がますます私達に集まってしまった。

「!頭を上げて下さい。全て過去の事。謝っていただく道理はありません」
私はこの状況を早く終わらせたくて、慌ててそう言った。

ハロルドは私の言葉に頭を上げたが、そこから一気にまくし立てた。

「ナタリーなんかを選んだ僕が馬鹿だった。あの可愛らしく甘える姿に最初は心惹かれたが、直ぐに間違いだったと気付いた。君を取り戻したいと思った時には、既に君は嫁いだ後。
仕方ないから何とかナタリーと上手くやっていこうと思ったが、彼女のわがままに、ほとほと疲れてしまった。浮気をした僕が悪いのはわかっているが、貴族の男なんてそんなものだろう?疲れた心を別の女で癒して何が悪い。
それを理解せずにナタリーのあの結婚式での大失態。その上、彼女は伯爵夫人としての務めを全て放棄した。僕には離縁は当然の結果だったんだ」


私はハロルド様のよく動く口を見ながら、なんと他責思考の持ち主なのだろうと呆れてものが言えなくなってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

あなたに未練などありません

風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」 初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。 わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。 数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。 そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

処理中です...