婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?

初瀬 叶

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第116話

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「ハッ!そんなわけにはいかないじゃないか。僕達は貴族だよ?辺境伯は、相手エリンだからそう思えるんだ。エリンは優秀だからな」

「君は婚約者時代にエリンに感謝した事があるか?」

「感謝?何を?」

「パトリック伯爵家の為にした努力にだよ」

「……婚約者として当たり前だと思ってたよ」

……ハロルドに『ありがとう』なんて言われた事あったかしら?いや……なかったわね。
当たり前だと思っていたのなら、そうか。

「うーん。君とは一生分かり合えない。君を理解している貴族男性は居るだろうがな」
そう言ったレナード様の言葉に何人もの男性がスッと目を逸らしたり、下を向いたりした。

私は、

「パトリック伯爵。私は絶対に貴方を選びません。奥様は妊娠されていらっしゃるのでしょう?気持ちが不安定になる事もあると聞いた事があります。大切にされて下さい」
そうハロルドに声をかけた。

「エリンの言う通り。奥方を悲しませるんじゃない。それと……二度とエリンに近づくな。これは忠告だ。次はない。何かしたらパトリック伯爵家ごと潰す」

「脅しか?」

「脅しだ。お前は信用ならん。最後に……エリンが言った事をもう一度良く考えるんだ。女性は君が都合よく扱って良い存在ではない。道具ではないんだぞ」

レナード様がそう言った時、遠巻きに見ていた人垣が割れ、殿下が姿を現した。


「レナード!何だが面白そうな事をしているな、私も混ぜろ」
と殿下は満面の笑みだ。

「お前が来るとややこしくなる。王太子なら王太子らしく、向こうでふんぞり返ってろ」
レナード様の不敬な物言いにハラハラしてしまうが、殿下は全く意に関せず。

「おぉ、パトリック伯爵。何だが辛気臭い顔をしているなぁ。ん?噂は本当だという事かな?」
殿下にそう言われ、ハロルドは顔をサッと赤くした。

「噂?」
レナード様の呟きに答える様に殿下は続けてハロルドへと声をかけた。

「君に代替わりした途端、隣国との取引が解消されたそうじゃないか。まぁ……前伯爵が取り付けた仕事だったからなぁ。元々パトリック伯爵領は目立つ産業がない。そこで隣国との取引に目をつけた前伯爵の狙いは良かったと思うがな。まだ君には早かったようだ」

……知らなかった。確かにパトリック伯爵領に主だった産業はなかったが、堅実な領地経営と広大な土地を活かして収入は安定しているものだとばかり……。最近、何度も前伯爵が隣国に足を運んでいたのは、その為だったのかと思い至る。

その言葉に、ハロルドの顔はますます赤くなってしまった。
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