117 / 121
第117話
しおりを挟む
流石に殿下には返す言葉もないのか、ハロルドは唇を噛み締めて羞恥に耐えていた。
だが殿下は攻撃の手を緩めない。
「君の言葉を借りるなら、伴侶には『安定した生活を約束する』だったかな?今のパトリック伯爵家にそれが出来る保証はなさそうだ。もちろん、領民の生活を脅かすのは王族として心苦しい。領民の救済には手を貸そう。だが、自分の家族は自分でどうにかするんだな」
「殿下の手を借りずとも、僕はちゃんとやれます!」
ハロルドの精一杯の強がりに聞こえる。
周りでは失笑が聞こえる。……王都では本当に噂になっていた様だ。辺境伯領には聞こえてこない話というのはこうして多いのだろう。
すると殿下は少し憐れむ様に、
「パトリック伯爵家は歴史のある、古い家だ。それはそれで素晴らしい事だと私も思う。だが時代は常に動いている。やり方もその時代、時代に合わせるべきだ。前伯爵はそれに気付いたが、少し遅かったようだな。君をちゃんと導く前に身を引いてしまったのも悪かった。だが、領民に罪はない。つまらんプライドは捨てろ。大切なのは領民だ。家の歴史でも、お前のちっぽけなプライドでもない」
「まだ!まだやれます!僕だって隣国との取引を……」
「取り付ける前に、領民が疲弊する。救済手続きを始める事を勧める」
「でも……」
「それと……辺境伯夫人も言っていたが奥方を大切にするんだ。妊婦に負担をかけるな。私の大切な妃も妊婦だからな。さっきの発言は見過ごせない」
殿下はそこまで言うと、
「さぁ!!余興は終わりだ!皆夜会を楽しんでくれ!酒も追加するぞ!」
と手を叩いた。
それを合図に、遠巻きに私達を眺めていた人垣はバラバラと散らばり始めた。
ハロルドは握った拳をフルフルと震わせながらも、その場から早足で立ち去った。会場を去るつもりらしい。私はその背中を目で追った。
その私の視線を遮る様に、ひょっこりと殿下が顔を覗かせた。
「余計な事をしたかな?」
「いいえ。パトリック伯爵家の現状を全く知りませんでしたので……。あそこまで言われれば伯爵も助けを求めるのではないでしょうか?領民が苦しむのは、私にとっても不本意ですので」
「いつか言わねばならないと思っていたのでな、この機会を使わせて貰ったが……灸を据えすぎたかな?だがメイリンがどうしても許せないと言うのでな。……お互い妻には弱いと見える」
そう言って殿下はレナード様を見て笑顔になった。
「あぁ。妻は偉大だからな」
レナード様も柔らかく微笑み返した。
だが殿下は攻撃の手を緩めない。
「君の言葉を借りるなら、伴侶には『安定した生活を約束する』だったかな?今のパトリック伯爵家にそれが出来る保証はなさそうだ。もちろん、領民の生活を脅かすのは王族として心苦しい。領民の救済には手を貸そう。だが、自分の家族は自分でどうにかするんだな」
「殿下の手を借りずとも、僕はちゃんとやれます!」
ハロルドの精一杯の強がりに聞こえる。
周りでは失笑が聞こえる。……王都では本当に噂になっていた様だ。辺境伯領には聞こえてこない話というのはこうして多いのだろう。
すると殿下は少し憐れむ様に、
「パトリック伯爵家は歴史のある、古い家だ。それはそれで素晴らしい事だと私も思う。だが時代は常に動いている。やり方もその時代、時代に合わせるべきだ。前伯爵はそれに気付いたが、少し遅かったようだな。君をちゃんと導く前に身を引いてしまったのも悪かった。だが、領民に罪はない。つまらんプライドは捨てろ。大切なのは領民だ。家の歴史でも、お前のちっぽけなプライドでもない」
「まだ!まだやれます!僕だって隣国との取引を……」
「取り付ける前に、領民が疲弊する。救済手続きを始める事を勧める」
「でも……」
「それと……辺境伯夫人も言っていたが奥方を大切にするんだ。妊婦に負担をかけるな。私の大切な妃も妊婦だからな。さっきの発言は見過ごせない」
殿下はそこまで言うと、
「さぁ!!余興は終わりだ!皆夜会を楽しんでくれ!酒も追加するぞ!」
と手を叩いた。
それを合図に、遠巻きに私達を眺めていた人垣はバラバラと散らばり始めた。
ハロルドは握った拳をフルフルと震わせながらも、その場から早足で立ち去った。会場を去るつもりらしい。私はその背中を目で追った。
その私の視線を遮る様に、ひょっこりと殿下が顔を覗かせた。
「余計な事をしたかな?」
「いいえ。パトリック伯爵家の現状を全く知りませんでしたので……。あそこまで言われれば伯爵も助けを求めるのではないでしょうか?領民が苦しむのは、私にとっても不本意ですので」
「いつか言わねばならないと思っていたのでな、この機会を使わせて貰ったが……灸を据えすぎたかな?だがメイリンがどうしても許せないと言うのでな。……お互い妻には弱いと見える」
そう言って殿下はレナード様を見て笑顔になった。
「あぁ。妻は偉大だからな」
レナード様も柔らかく微笑み返した。
1,600
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
あなたに未練などありません
風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」
初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。
わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。
数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。
そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる