婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?

初瀬 叶

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第117話

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流石に殿下には返す言葉もないのか、ハロルドは唇を噛み締めて羞恥に耐えていた。
だが殿下は攻撃の手を緩めない。

「君の言葉を借りるなら、伴侶には『安定した生活を約束する』だったかな?今のパトリック伯爵家にそれが出来る保証はなさそうだ。もちろん、領民の生活を脅かすのは王族として心苦しい。領民の救済には手を貸そう。だが、自分の家族は自分でどうにかするんだな」

「殿下の手を借りずとも、僕はちゃんとやれます!」

ハロルドの精一杯の強がりに聞こえる。
周りでは失笑が聞こえる。……王都では本当に噂になっていた様だ。辺境伯領には聞こえてこない話というのはこうして多いのだろう。

すると殿下は少し憐れむ様に、

「パトリック伯爵家は歴史のある、古い家だ。それはそれで素晴らしい事だと私も思う。だが時代は常に動いている。やり方もその時代、時代に合わせるべきだ。前伯爵はそれに気付いたが、少し遅かったようだな。君をちゃんと導く前に身を引いてしまったのも悪かった。だが、領民に罪はない。つまらんプライドは捨てろ。大切なのは領民だ。家の歴史でも、お前のちっぽけなプライドでもない」

「まだ!まだやれます!僕だって隣国との取引を……」

「取り付ける前に、領民が疲弊する。救済手続きを始める事を勧める」

「でも……」

「それと……辺境伯夫人も言っていたが奥方を大切にするんだ。妊婦に負担をかけるな。私の大切な妃も妊婦だからな。さっきの発言は見過ごせない」
殿下はそこまで言うと、

「さぁ!!余興は終わりだ!皆夜会を楽しんでくれ!酒も追加するぞ!」
と手を叩いた。

それを合図に、遠巻きに私達を眺めていた人垣はバラバラと散らばり始めた。

ハロルドは握った拳をフルフルと震わせながらも、その場から早足で立ち去った。会場を去るつもりらしい。私はその背中を目で追った。


その私の視線を遮る様に、ひょっこりと殿下が顔を覗かせた。

「余計な事をしたかな?」

「いいえ。パトリック伯爵家の現状を全く知りませんでしたので……。あそこまで言われれば伯爵も助けを求めるのではないでしょうか?領民が苦しむのは、私にとっても不本意ですので」

「いつか言わねばならないと思っていたのでな、この機会を使わせて貰ったが……灸を据えすぎたかな?だがメイリンがどうしても許せないと言うのでな。……お互い妻には弱いと見える」
そう言って殿下はレナード様を見て笑顔になった。

「あぁ。妻は偉大だからな」
レナード様も柔らかく微笑み返した。
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