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第119話
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「バーバラ見て!庭に薄っすらと雪がつもっているわ」
「本当ですね!どうりで今朝は特に冷えると思いましたよ」
「庭に出てみようかしら?」
「ダメですよ!体を冷やしてはいけないと言われたばかりではないですか!」
バーバラに叱られては、仕方ない。
「はーい。分かった。大人しくしておくわ。でも、レナード様大丈夫かしら?」
「これぐらいの雪なら大丈夫ですよ。もう国境沿いの警備に行って一ヶ月になりますからね。早くお会いしたいのではないですか?」
「もちろんよ!今日の日を指折り数えて待っていたもの」
私とバーバラが二人で話していると、玄関ホールの方で声が聞こえた気がした。
「レナード様かしら?!」
私は愛しい人の帰還かと思い、慌てて部屋を飛び出した。
後ろから、
「走ってはいけません!玄関先は寒いかもしれまんので、せめてショールを!」
とバーバラが追いかけて来る。
しかし階段の上からホールを眺めると、そこには執事と肩に薄っすらと雪を積もらせた配達員が居た。私は少しガッカリしながらも、階段をゆっくりと降りる。バーバラがそんな私の肩にそっとショールを掛けた。
階段を降りる私の存在に気付いた二人が私を見て微笑んだ。
「奥様、ちょうど良かった。ご実家からお手紙ですよ。それと、お兄様からも。まるでタイミングを合わせた様ですね」
と二通の手紙を少し掲げた。
私は二人に近づく。配達員は改めて私に頭を下げた。
「外は寒かったでしょう?何か温かいものでも飲んでいきませんか?」
私の声に、
「お心遣いありがとうございます。でも雪が酷くなる前に、他の手紙も配り終わらないと。では、失礼します」
と配達員は肩の雪を床に落としながら玄関を出て行った。
私は執事から手紙を受け取ると、部屋へ戻ってそれを開く。
「お父様、随分と元気になられたようだわ。声が出るようになったって」
母からの手紙に目を通しながら、私はバーバラに報告した。
「まぁ!それは良うございました」
「お母様も、まるで新婚時代の様に二人の時間を楽しんでいるって。……良かった」
きっと、父の看病で疲れる事もあるだろうに、それを微塵も感じさせない手紙に私は胸が熱くなった。
兄の手紙にはミネルバが大きなお腹で元気に飛び回っていると書いてある。ミネルバらしい。
「ナタリー……婚家でも大変みたいね」
兄の手紙の最後にはナタリーの事が書かれていた。
確かにナタリーは何もしなくて良いと言われ、何もしていないらしい。そう……何もしていないのだ。
ボーエン男爵の姉君はボーエン男爵の全てを仕切っている様で、お茶会を開いたり、社交をするのも全て姉君。
夫であるボーエン男爵は国を東から西、北から南と忙しく飛び回っているので、家には殆ど居ないらしい。
その間、姉君とナタリーはボーエン家で二人きり……本当に何もさせて貰えないらしく、たまに兄がボーエン男爵を尋ねて行くと、ナタリーが泣きついてくるらしい。
「小姑が取り仕切る家ですか……何もしなくても良いと言われても嫌ですね」
私が兄の手紙をバーバラに話して聞かせると、バーバラはそう言って顔を顰めた。
「確かに……少し息が詰まりそうだし、退屈そうだわ」
「どうしてボーエン男爵は結婚したんでしょうね?確か前妻の方との間にご嫡男もいらっしゃるし、家政もお姉様のお陰で困っていない……何故でしょう?」
「兄も最初にそれを尋ねたそうよ。そうしたら『妻という肩書の人間が居たほうが、商売は上手くいくんですよ。その方が信用して貰えるんです』って答えたらしいわ。ご嫡男は結婚して王都に住んでいるらしいし……流石のナタリーも誰にも頼れず、この結婚に踏み切って随分と恨んでいたお兄様に助けを求めるぐらいだもの」
兄はそれでも『自業自得』と突き放した……そう書いてあった。
「本当ですね!どうりで今朝は特に冷えると思いましたよ」
「庭に出てみようかしら?」
「ダメですよ!体を冷やしてはいけないと言われたばかりではないですか!」
バーバラに叱られては、仕方ない。
「はーい。分かった。大人しくしておくわ。でも、レナード様大丈夫かしら?」
「これぐらいの雪なら大丈夫ですよ。もう国境沿いの警備に行って一ヶ月になりますからね。早くお会いしたいのではないですか?」
「もちろんよ!今日の日を指折り数えて待っていたもの」
私とバーバラが二人で話していると、玄関ホールの方で声が聞こえた気がした。
「レナード様かしら?!」
私は愛しい人の帰還かと思い、慌てて部屋を飛び出した。
後ろから、
「走ってはいけません!玄関先は寒いかもしれまんので、せめてショールを!」
とバーバラが追いかけて来る。
しかし階段の上からホールを眺めると、そこには執事と肩に薄っすらと雪を積もらせた配達員が居た。私は少しガッカリしながらも、階段をゆっくりと降りる。バーバラがそんな私の肩にそっとショールを掛けた。
階段を降りる私の存在に気付いた二人が私を見て微笑んだ。
「奥様、ちょうど良かった。ご実家からお手紙ですよ。それと、お兄様からも。まるでタイミングを合わせた様ですね」
と二通の手紙を少し掲げた。
私は二人に近づく。配達員は改めて私に頭を下げた。
「外は寒かったでしょう?何か温かいものでも飲んでいきませんか?」
私の声に、
「お心遣いありがとうございます。でも雪が酷くなる前に、他の手紙も配り終わらないと。では、失礼します」
と配達員は肩の雪を床に落としながら玄関を出て行った。
私は執事から手紙を受け取ると、部屋へ戻ってそれを開く。
「お父様、随分と元気になられたようだわ。声が出るようになったって」
母からの手紙に目を通しながら、私はバーバラに報告した。
「まぁ!それは良うございました」
「お母様も、まるで新婚時代の様に二人の時間を楽しんでいるって。……良かった」
きっと、父の看病で疲れる事もあるだろうに、それを微塵も感じさせない手紙に私は胸が熱くなった。
兄の手紙にはミネルバが大きなお腹で元気に飛び回っていると書いてある。ミネルバらしい。
「ナタリー……婚家でも大変みたいね」
兄の手紙の最後にはナタリーの事が書かれていた。
確かにナタリーは何もしなくて良いと言われ、何もしていないらしい。そう……何もしていないのだ。
ボーエン男爵の姉君はボーエン男爵の全てを仕切っている様で、お茶会を開いたり、社交をするのも全て姉君。
夫であるボーエン男爵は国を東から西、北から南と忙しく飛び回っているので、家には殆ど居ないらしい。
その間、姉君とナタリーはボーエン家で二人きり……本当に何もさせて貰えないらしく、たまに兄がボーエン男爵を尋ねて行くと、ナタリーが泣きついてくるらしい。
「小姑が取り仕切る家ですか……何もしなくても良いと言われても嫌ですね」
私が兄の手紙をバーバラに話して聞かせると、バーバラはそう言って顔を顰めた。
「確かに……少し息が詰まりそうだし、退屈そうだわ」
「どうしてボーエン男爵は結婚したんでしょうね?確か前妻の方との間にご嫡男もいらっしゃるし、家政もお姉様のお陰で困っていない……何故でしょう?」
「兄も最初にそれを尋ねたそうよ。そうしたら『妻という肩書の人間が居たほうが、商売は上手くいくんですよ。その方が信用して貰えるんです』って答えたらしいわ。ご嫡男は結婚して王都に住んでいるらしいし……流石のナタリーも誰にも頼れず、この結婚に踏み切って随分と恨んでいたお兄様に助けを求めるぐらいだもの」
兄はそれでも『自業自得』と突き放した……そう書いてあった。
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