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15.その頃の人間の国の話(ゼファー視点)
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「……ゼファー、これはどういうことだ!!」
殿下が苛々した様子で私に怒鳴った。それも仕方がない、勇者を魔王城へ送ってからもう3ヵ月近くたったというのに何度挑戦しても新しい勇者を呼び出すための魔法陣が光を放つことがなかったからだ。
この世界へ勇者を呼び出すためには、魔法陣により異世界にゲートをつなぐ必要があり、そのゲートは以前の勇者が死ぬことで再びつながるという伝承があった。
その伝承に従い、私と殿下はあの役立たずの勇者を殺した、いや死ぬように仕向けたのだが何が足りないのか以前アレを呼び出した時のように魔法陣が光り輝くことがないままだ。
「確かにアレは処理したはずなのですが……、何か足りないのでしょうか」
足りないものがあるとしたら文献を再度見分し調べる必要があるなと考えていると、召喚室の扉が乱暴に開いた。そこにたっている人物の姿に小さくため息をつく。今の私を悩ませるもうひとつの要因、アベルだった。
「……レイジはどこにいる??ゼファー、殿下、ふたりがレイジを連れ去ったことは分かってるんだ!!大人しく話せ、俺の美しい薔薇の居場所を!!」
血走った瞳は正気を完全に失っていた。
アベルでなければ適当に処理するが、アベルであることが問題だった。
勇者というイレギュラーの最強の存在が居ない状態のこの王国で、最強格の存在なのが悲しいがこのアベルだった。つまり、魔法で抗う術がある私を除いてこの男を抑止することが難しく、されど殺すことも今の状態ではできないという想像だにしない状況となっていたのだ。
「……アベル殿、落ち着いてくれ、我々はアレがどこに行ったかなど知らない」
「嘘だ。あんたら以外が俺の部屋に無断で入れるわけがない。そして、レイジは、俺の薔薇は逃げらるなんて考えることもないはずだからな」
ニィっと下卑た笑みを浮かべるその表情に背筋が寒くなる。元々、アベルには男色のけがあり、側につけた小姓の大半は彼の絶倫ぶりに辟易してすぐにやめてしまう話は有名だった。
しかし、その割にひとりに執着することがないのでアベルが勇者を欲した時も、むしろ心を完全に壊して万が一にも生き残る道をつぶすのに有用だとしか思っていなかった。
(……くそ、何もかもうまくいかない!!やっとここまできたのに……)
「まぁ、いい。あんたらが口を割らないなら俺が薔薇を探しにいけばいいだけのことだ」
「だ、だめだ。あなたは人類の最後の希望のひとりだ、だから……」
殿下がアベルを引き留めようとしたが、アベルの瞳はうつろでもはやあの勇者のこと以外、なにも響いていないことはすぐにわかった。
「だからなんだ??俺はこの世界なんて正直どうなっても関係ない。俺の薔薇が俺の元に戻るならそんなもの関係ないんだよ!!」
そして、支離滅裂なことを叫ぶとそのままどこかへ行ってしまった。
「ま、待ってくれ……」
「殿下、これ以上は危険です」
アベルを追おうとした殿下を止めると、見るからに憔悴した表情になっているのが分かった。その表情に胸が痛みその体を抱きとめた。
「アベルはもうあきらめましょう。私たちふたりで成し遂げればいい。そのためにも現在の状況を確認しましょう」
「……ああ」
殿下が苛々した様子で私に怒鳴った。それも仕方がない、勇者を魔王城へ送ってからもう3ヵ月近くたったというのに何度挑戦しても新しい勇者を呼び出すための魔法陣が光を放つことがなかったからだ。
この世界へ勇者を呼び出すためには、魔法陣により異世界にゲートをつなぐ必要があり、そのゲートは以前の勇者が死ぬことで再びつながるという伝承があった。
その伝承に従い、私と殿下はあの役立たずの勇者を殺した、いや死ぬように仕向けたのだが何が足りないのか以前アレを呼び出した時のように魔法陣が光り輝くことがないままだ。
「確かにアレは処理したはずなのですが……、何か足りないのでしょうか」
足りないものがあるとしたら文献を再度見分し調べる必要があるなと考えていると、召喚室の扉が乱暴に開いた。そこにたっている人物の姿に小さくため息をつく。今の私を悩ませるもうひとつの要因、アベルだった。
「……レイジはどこにいる??ゼファー、殿下、ふたりがレイジを連れ去ったことは分かってるんだ!!大人しく話せ、俺の美しい薔薇の居場所を!!」
血走った瞳は正気を完全に失っていた。
アベルでなければ適当に処理するが、アベルであることが問題だった。
勇者というイレギュラーの最強の存在が居ない状態のこの王国で、最強格の存在なのが悲しいがこのアベルだった。つまり、魔法で抗う術がある私を除いてこの男を抑止することが難しく、されど殺すことも今の状態ではできないという想像だにしない状況となっていたのだ。
「……アベル殿、落ち着いてくれ、我々はアレがどこに行ったかなど知らない」
「嘘だ。あんたら以外が俺の部屋に無断で入れるわけがない。そして、レイジは、俺の薔薇は逃げらるなんて考えることもないはずだからな」
ニィっと下卑た笑みを浮かべるその表情に背筋が寒くなる。元々、アベルには男色のけがあり、側につけた小姓の大半は彼の絶倫ぶりに辟易してすぐにやめてしまう話は有名だった。
しかし、その割にひとりに執着することがないのでアベルが勇者を欲した時も、むしろ心を完全に壊して万が一にも生き残る道をつぶすのに有用だとしか思っていなかった。
(……くそ、何もかもうまくいかない!!やっとここまできたのに……)
「まぁ、いい。あんたらが口を割らないなら俺が薔薇を探しにいけばいいだけのことだ」
「だ、だめだ。あなたは人類の最後の希望のひとりだ、だから……」
殿下がアベルを引き留めようとしたが、アベルの瞳はうつろでもはやあの勇者のこと以外、なにも響いていないことはすぐにわかった。
「だからなんだ??俺はこの世界なんて正直どうなっても関係ない。俺の薔薇が俺の元に戻るならそんなもの関係ないんだよ!!」
そして、支離滅裂なことを叫ぶとそのままどこかへ行ってしまった。
「ま、待ってくれ……」
「殿下、これ以上は危険です」
アベルを追おうとした殿下を止めると、見るからに憔悴した表情になっているのが分かった。その表情に胸が痛みその体を抱きとめた。
「アベルはもうあきらめましょう。私たちふたりで成し遂げればいい。そのためにも現在の状況を確認しましょう」
「……ああ」
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