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僕らの未来
宣言※
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結局出先でそれ以上の話も出来なくて、僕は何を考えているのか表情の読めない先輩を盗み見しながら二人のマンションへと戻った。まぁ、先輩のマンションだけど。
「…ただいま。」
誰がいる訳でも無い空っぽの部屋に無意識に呼びかけると、先輩が妙に機嫌良さげに笑みを顔に貼り付けて口を開いた。
「ああ、良いね。普通に陽太の家みたいで。」
洗面所で手洗いをしながら、僕は先輩が怒っているのか機嫌が良いのかまるで判断出来なかった。でも弱気になったらきっと酷いお仕置きが待っている気がしたから、何でも無い様子で笑みを返すと先にリビングへと歩き進んだ。
何か言いたげな先輩は、それでも自分はキッチンに向かうとコーヒーマシーンを動かした。直ぐに良い匂いが部屋に漂ってきて、それはまるで休戦の合図の様で僕はこっそり息を吐いた。
「陽太、コート脱がなくちゃ。」
そう言いながら先輩は僕に近づくと、キャメル色のダッフルコートを脱がし始めた。このコートは先輩が僕のために部屋に用意しておいてくれたもので、僕も一目で気に入ったものだ。
他にも僕用の服が用意されていたみたいで、僕は先輩にすっかり貢がれている。
「やっぱりよく似合うな、これ。俺の選んだものを身につけてる陽太見ると、凄い満足感あるんだ。こんな気持ち初めてかもな。」
コートを掛けたハンガーをクローゼットのフックに掛けるのを眺めながら、僕は先輩もカシミアの黒いロングコートを脱ぐのをぼんやりと眺めた。
Vネックの薄手の茶色のニットが、筋肉質な身体の凹凸を拾って色っぽい。先輩だったらそこら辺の量産品でもモデルの様に着こなすだろう。だから品質が良いものを着ると目が潰れそうだと思った。
「何?俺様に見惚れちゃって。クク、陽太は分かりやすいな。」
僕は先輩を睨むと、食器棚からマグカップを二つ取り出した。先輩がニヤニヤしながらカップにコーヒーを注ぐと、温めたミルクを僕のカップに注いだ。
元々お茶を淹れることなどほとんどしなかった先輩は、僕と一緒にお家デートに勤しむ様になってから俄然コーヒーを淹れる手際が良くなった。何ならもう僕より美味しいコーヒーを淹れてくれるかもしれない。まったくもって、アルファというのは可愛げがないんだ。
二人のカップを持った先輩がソファテーブルにそれを置くと、僕は続いてソファに腰掛けた。
「そんなに警戒されちゃあ、必要なことも聞き出せないからな。まずは俺の淹れたカフェモカを飲んで?」
カフェモカと聞いたら、好物のドリンクを前に僕はなすすべなく手を伸ばした。ああ、美味しい。ほんのり甘いのもリラックス出来る。
「しかし、あの男の言う事は支離滅裂だったな。バックボーンの無いアルファは少なく無いが、あれだけ優秀な男ならいくらでも自分で起業するなり、やりようはあるだろうに。
まぁ、ケイSコンサルの後継者候補ってのは確かに願ってもないものだろうが。陽太の叔父さんって言ってたか?」
僕は年末年始の啓介叔父さんとの騒動をかいつまんで先輩に弁明した。正直言って、今直ぐどうこう言う様な話だと認識していなかったせいで、僕はずっと他人事な気でいたんだ。
実際他人事な気もする。
「…なるほどね。陽太が後天性にしろオメガになったのは、やはり血筋的なものも有ったんだな。まぁその祖父さんの話はアルファなら良くある話って感じだがな。
運命のオメガってのは、そう言う意味で無視できないから色々な意味で怖いもんだ。」
そう悟った様な表情を浮かべて言葉を繋げる先輩に、僕はモヤモヤしてしまう。
「…省吾くんもやっぱり運命のオメガが目の前に現れたら、僕がいてもそっちに行っちゃうのかな。」
途端に仰天した表情で先輩は僕を見た。それから手に持ったカップをゆっくりとテーブルに戻すと、僕の手からも同様にカップを引き取った。…なんか怒ってる?
「陽太は本当全然だな。オメガ初心者だからしょうがないのか?なぁ、俺が高校の頃から唾つけてたベータの男を、運命じゃないなんて思う?あのさ、陽太がベータでも俺はお前を手に入れたかったんだ。
大学で再会した時、何で陽太にこんなにも執着するのか俺にもその時は分からなかった。でも、今ならはっきりと分かる。陽太は俺の運命のオメガなんだって。…陽太がそれを感じてないのはちょっと嘘だろって感じだけどなぁ。」
最後は僕を揶揄う様に睨んでいる先輩に、僕はじわじわ体温が上がるのを自覚する。僕だってひと目見た時から先輩から目が離せなかった。絶対自分じゃ有り得ないって思うようなセフレまでになって、先輩を自分のものにしたかったんだ。
「…僕も一目で先輩が欲しかった。それが運命なら、僕は省吾くんの言う事を信じる。」
優しく微笑んだ先輩が僕に触れる様な口づけをした。少しコーヒーの香りがするそのキスは甘い。
僕はもっとキスを深めたかったけれど、先輩は身体を離してカップを手に取るとコーヒーを飲み干した。…残念。
「そう言えば陽太は、俺が運命の相手なのに結婚は考えられないみたいだったな?あれは結構ショックだったな。俺ばっかり真剣で、まさか陽太に弄ばれてるなんてな…。」
僕はギョッとして釣られて手に持ったカップをテーブルに置くと、目を細めて僕を見つめる先輩に抱きついた。
「びっくりしただけだよ!だって結婚だよ?でも結婚したい!僕、省吾くんと結婚します!」
「…まじで?やばい、嬉し過ぎ。」
僕を抱きしめた先輩がくぐもった声でそう言うのを聞いて、僕は思わず顔を上げて先輩を見た。普段ほとんどポーカーフェイスの先輩が顔を赤らめて照れている。何それ、可愛い…。
「…先輩、照れてるの?」
「先輩じゃないだろ?省吾って呼べって…。はぁ、俺自分の事侮ってたわ。俺にもこんなに浮かれるような事があるなんて思わなかった。何か無理やり結婚に承諾させた感もあるけど、俺は陽太の事絶対手放す事ないから。覚悟しろよ?」
自分が目の前の大好きな先輩と近い未来に結婚するのだと自覚した僕は、先輩の首に抱きついてキスをした。さっきとは違う分け与える様な口づけは、僕と先輩をとことん近くに引き寄せる。
粘膜を撫でるお互いの艶かしい舌使いに夢中になる。見つめ合っては睫毛が触れる様な近い距離で揶揄い合って、すっかり身体は興奮してしまっている。
僕の先輩への愛情が、ますます息を荒げさせる。
「…省吾くん、お願い。ちょうだい?もっと奥で触れ合いたいの。」
顔を顰めるのとほくそ笑むのを同時にした先輩は、僕を脚の間に立たせると、待ちきれない様に自分の服を脱いでいく。僕も自分から脱いで上半身を晒した。
「…陽太のそんな色っぽい身体見せつけられたら、裸になる暇がないだろう?」
膝まで降りたズボンを脚で蹴り出しながら、先輩の下着は大きく膨らんでその形をいやらしく見せつけている。ピッタリとした滑らかなボクサーパンツが少しシミになっているのも卑猥だ。
僕は小さく呻きながら、その先輩の色っぽい姿から目が離せない。そんな僕を抱き寄せて甘く舌を這わす先輩の指先が、悪戯に胸の先端を押しつぶしたり弾くせいで、僕はビクビクと腰を震わせた。
「あーあ、陽太我慢しなきゃダメだぞ?ウールのズボン汚したくないだろう?」
そう言いながらさっきよりも激しく僕の胸の先を吸い上げて愛撫する先輩のせいで、僕はどうしようもない。
「あんっ、省吾くん、脱がせて…!汚しちゃうっ、ああっ、やぁっ!駄目っ、っ…!」
自分のベルトが外される音と締めつけが解放される感覚の中、僕は下着が熱く濡れるのを感じた。
「可愛い、陽太。胸だけで逝っちゃったのか?あー、ほら足あげて。そうそう。じゃあ、ベッド行こっか。」
僕は機嫌の良い先輩に引きずられる様にベッドへと連れ込まれた。軽い口調ながら、いつもよりずっと掠れ声のせいで先輩も興奮してるのが隠しきれない。
素っ裸になった僕を見下ろしながら自分の猛り切った股間を宥める様に手で撫でた先輩が、嬉しそうに言った。
「婚約記念の今夜は、いつも以上に陽太にも頑張って貰おうかな?」
「…ただいま。」
誰がいる訳でも無い空っぽの部屋に無意識に呼びかけると、先輩が妙に機嫌良さげに笑みを顔に貼り付けて口を開いた。
「ああ、良いね。普通に陽太の家みたいで。」
洗面所で手洗いをしながら、僕は先輩が怒っているのか機嫌が良いのかまるで判断出来なかった。でも弱気になったらきっと酷いお仕置きが待っている気がしたから、何でも無い様子で笑みを返すと先にリビングへと歩き進んだ。
何か言いたげな先輩は、それでも自分はキッチンに向かうとコーヒーマシーンを動かした。直ぐに良い匂いが部屋に漂ってきて、それはまるで休戦の合図の様で僕はこっそり息を吐いた。
「陽太、コート脱がなくちゃ。」
そう言いながら先輩は僕に近づくと、キャメル色のダッフルコートを脱がし始めた。このコートは先輩が僕のために部屋に用意しておいてくれたもので、僕も一目で気に入ったものだ。
他にも僕用の服が用意されていたみたいで、僕は先輩にすっかり貢がれている。
「やっぱりよく似合うな、これ。俺の選んだものを身につけてる陽太見ると、凄い満足感あるんだ。こんな気持ち初めてかもな。」
コートを掛けたハンガーをクローゼットのフックに掛けるのを眺めながら、僕は先輩もカシミアの黒いロングコートを脱ぐのをぼんやりと眺めた。
Vネックの薄手の茶色のニットが、筋肉質な身体の凹凸を拾って色っぽい。先輩だったらそこら辺の量産品でもモデルの様に着こなすだろう。だから品質が良いものを着ると目が潰れそうだと思った。
「何?俺様に見惚れちゃって。クク、陽太は分かりやすいな。」
僕は先輩を睨むと、食器棚からマグカップを二つ取り出した。先輩がニヤニヤしながらカップにコーヒーを注ぐと、温めたミルクを僕のカップに注いだ。
元々お茶を淹れることなどほとんどしなかった先輩は、僕と一緒にお家デートに勤しむ様になってから俄然コーヒーを淹れる手際が良くなった。何ならもう僕より美味しいコーヒーを淹れてくれるかもしれない。まったくもって、アルファというのは可愛げがないんだ。
二人のカップを持った先輩がソファテーブルにそれを置くと、僕は続いてソファに腰掛けた。
「そんなに警戒されちゃあ、必要なことも聞き出せないからな。まずは俺の淹れたカフェモカを飲んで?」
カフェモカと聞いたら、好物のドリンクを前に僕はなすすべなく手を伸ばした。ああ、美味しい。ほんのり甘いのもリラックス出来る。
「しかし、あの男の言う事は支離滅裂だったな。バックボーンの無いアルファは少なく無いが、あれだけ優秀な男ならいくらでも自分で起業するなり、やりようはあるだろうに。
まぁ、ケイSコンサルの後継者候補ってのは確かに願ってもないものだろうが。陽太の叔父さんって言ってたか?」
僕は年末年始の啓介叔父さんとの騒動をかいつまんで先輩に弁明した。正直言って、今直ぐどうこう言う様な話だと認識していなかったせいで、僕はずっと他人事な気でいたんだ。
実際他人事な気もする。
「…なるほどね。陽太が後天性にしろオメガになったのは、やはり血筋的なものも有ったんだな。まぁその祖父さんの話はアルファなら良くある話って感じだがな。
運命のオメガってのは、そう言う意味で無視できないから色々な意味で怖いもんだ。」
そう悟った様な表情を浮かべて言葉を繋げる先輩に、僕はモヤモヤしてしまう。
「…省吾くんもやっぱり運命のオメガが目の前に現れたら、僕がいてもそっちに行っちゃうのかな。」
途端に仰天した表情で先輩は僕を見た。それから手に持ったカップをゆっくりとテーブルに戻すと、僕の手からも同様にカップを引き取った。…なんか怒ってる?
「陽太は本当全然だな。オメガ初心者だからしょうがないのか?なぁ、俺が高校の頃から唾つけてたベータの男を、運命じゃないなんて思う?あのさ、陽太がベータでも俺はお前を手に入れたかったんだ。
大学で再会した時、何で陽太にこんなにも執着するのか俺にもその時は分からなかった。でも、今ならはっきりと分かる。陽太は俺の運命のオメガなんだって。…陽太がそれを感じてないのはちょっと嘘だろって感じだけどなぁ。」
最後は僕を揶揄う様に睨んでいる先輩に、僕はじわじわ体温が上がるのを自覚する。僕だってひと目見た時から先輩から目が離せなかった。絶対自分じゃ有り得ないって思うようなセフレまでになって、先輩を自分のものにしたかったんだ。
「…僕も一目で先輩が欲しかった。それが運命なら、僕は省吾くんの言う事を信じる。」
優しく微笑んだ先輩が僕に触れる様な口づけをした。少しコーヒーの香りがするそのキスは甘い。
僕はもっとキスを深めたかったけれど、先輩は身体を離してカップを手に取るとコーヒーを飲み干した。…残念。
「そう言えば陽太は、俺が運命の相手なのに結婚は考えられないみたいだったな?あれは結構ショックだったな。俺ばっかり真剣で、まさか陽太に弄ばれてるなんてな…。」
僕はギョッとして釣られて手に持ったカップをテーブルに置くと、目を細めて僕を見つめる先輩に抱きついた。
「びっくりしただけだよ!だって結婚だよ?でも結婚したい!僕、省吾くんと結婚します!」
「…まじで?やばい、嬉し過ぎ。」
僕を抱きしめた先輩がくぐもった声でそう言うのを聞いて、僕は思わず顔を上げて先輩を見た。普段ほとんどポーカーフェイスの先輩が顔を赤らめて照れている。何それ、可愛い…。
「…先輩、照れてるの?」
「先輩じゃないだろ?省吾って呼べって…。はぁ、俺自分の事侮ってたわ。俺にもこんなに浮かれるような事があるなんて思わなかった。何か無理やり結婚に承諾させた感もあるけど、俺は陽太の事絶対手放す事ないから。覚悟しろよ?」
自分が目の前の大好きな先輩と近い未来に結婚するのだと自覚した僕は、先輩の首に抱きついてキスをした。さっきとは違う分け与える様な口づけは、僕と先輩をとことん近くに引き寄せる。
粘膜を撫でるお互いの艶かしい舌使いに夢中になる。見つめ合っては睫毛が触れる様な近い距離で揶揄い合って、すっかり身体は興奮してしまっている。
僕の先輩への愛情が、ますます息を荒げさせる。
「…省吾くん、お願い。ちょうだい?もっと奥で触れ合いたいの。」
顔を顰めるのとほくそ笑むのを同時にした先輩は、僕を脚の間に立たせると、待ちきれない様に自分の服を脱いでいく。僕も自分から脱いで上半身を晒した。
「…陽太のそんな色っぽい身体見せつけられたら、裸になる暇がないだろう?」
膝まで降りたズボンを脚で蹴り出しながら、先輩の下着は大きく膨らんでその形をいやらしく見せつけている。ピッタリとした滑らかなボクサーパンツが少しシミになっているのも卑猥だ。
僕は小さく呻きながら、その先輩の色っぽい姿から目が離せない。そんな僕を抱き寄せて甘く舌を這わす先輩の指先が、悪戯に胸の先端を押しつぶしたり弾くせいで、僕はビクビクと腰を震わせた。
「あーあ、陽太我慢しなきゃダメだぞ?ウールのズボン汚したくないだろう?」
そう言いながらさっきよりも激しく僕の胸の先を吸い上げて愛撫する先輩のせいで、僕はどうしようもない。
「あんっ、省吾くん、脱がせて…!汚しちゃうっ、ああっ、やぁっ!駄目っ、っ…!」
自分のベルトが外される音と締めつけが解放される感覚の中、僕は下着が熱く濡れるのを感じた。
「可愛い、陽太。胸だけで逝っちゃったのか?あー、ほら足あげて。そうそう。じゃあ、ベッド行こっか。」
僕は機嫌の良い先輩に引きずられる様にベッドへと連れ込まれた。軽い口調ながら、いつもよりずっと掠れ声のせいで先輩も興奮してるのが隠しきれない。
素っ裸になった僕を見下ろしながら自分の猛り切った股間を宥める様に手で撫でた先輩が、嬉しそうに言った。
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