内気な僕と大人な彼とのマッチングアプリ

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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マッチングアプリ

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 ゲイ向けのマッチングアプリを登録したものの、相手探し迄に至らない僕は完全なる臆病者だ。スクロールすれば首から下の筋肉美を誇る画像ばかりが目に飛び込んできて、ますます僕を怖気させる。

 自分でも大学生になったのだから、恋人の一人や二人欲しいと思ってはいる。いや、何なら切実に思ってる。周囲の男女の様にサークル内だとか、ゼミだとか、バイト先で出会う彼氏彼女達を見ていると、同性に惹かれる僕にはどうしたって彼らの様に自然に出会うなんてハードルが高い。


 元々細身だけど身長も低くは無いし、綺麗系ファッションが好きな僕は女子達に結構モテる。多分他の男子みたいに彼女達に性欲の滲む態度を持たないせいで、余計にモテるのだろう。

 それは高校時代からそうだった。彼女達と話すのは嫌いじゃないけど、キスしたいだとか手を繋ぎたいとか思わない時点で僕は女子に股間が反応しないのだ。

 だからって身近にいる男達に反応するかと言えば、そうでもなかった。彼らは騒がしくて愉快だけれど、僕の胸を高鳴らせたりはしない。



 だからもしかして人間そのものを好きにならない性癖なのかと、密かに怯えて過ごしていた高校三年生の春にそれは起きた。いつもの電車通学でうっかり荷物を棚に置いたまま降りてしまった僕の後を追いかけて来た男性に、僕は目が釘付けになってしまった。

『君、これ忘れたでしょ?』

 そう言って眼鏡の奥から優しく微笑んで僕にサブバックを差し出したスーツ姿の若い男性に、僕は慌てて頭を下げて荷物を受け取った。


 何だか経験の無い心臓のドキドキに戸惑っているうちに、その人はお礼もちゃんと言えない僕の前から立ち去ってしまった。今なら僕はちゃんとお礼を言って連絡先も聞けるかもしれないけど、その時は自分の世界が明らかに変化した事に動揺して何も出来なかった。

 でもその日を境に、僕は時々自分の目を奪う大人の男性が存在する事に気づいた。今までは僕の狭い世界、同級生や後輩や先輩としか関わりが無かったせいで、自分の好きになる相手が年上の男性だとは気づかなかったんだ。


 とは言えバイトもしない受験生である高校生の僕が、大人の男性と知り合う機会などまるで無かった。塾の先生は大人かもしれないけど、大人の男性なら誰でも良いわけじゃない。

 周囲も浮かれる恋を諦めて受験勉強に染まっていく中、僕は大学生になったら恋をしようと決意した。上京して一人暮らしをすれば行動範囲も広がって、好みの相手に出会う機会も増えるだろう。

 そう考えると、勉強もずっと捗る気がした。



 
 ワンルームのマンションのベッドに転がって、僕はいつもの様にスマホをスクロールしてる。マッチングアプリの中は明らかに身体目的としか思えないコメントで溢れかえっていて、それは相変わらず僕を怯えさせた。

 普通に大学生活をしていても、結局ゲイの僕が恋人を作れる訳もなくあっという間に一年と半分以上が過ぎてしまった。言い寄ってくる女子たちには遠距離の恋人が居るからと適当に誤魔化してるけれど、虚構の理由に頼らないといけない哀しさが顔を歪ませる。

 だから今年の冬こそは恋人を作ろうと、こうして僕は思い切ってゲイ向けのアプリを使ってはみたのだけれど…。


 時々好みの大人リーマンの画像も流れてくるけど、結局プロフィールには僕の知りたい事は載っていない。僕はその人が筋肉質なのか知りたいんじゃない。どんな風に微笑んで、どんな本が好きで、何処へ出掛けるのが好きなのか知りたいんだ。

 だから口角の上がった口元まで映し出されている画像があると思わずじっと見てしまう。勇気が出なくて良いねは押せないけれど、最近ちょっと気になる人も出来たんだ。


 口元から上半身が映り込んでいる画像はスーツでは無いけれど、爽やかなクリーム色のニット姿だ。手首から覗く黒革の時計の感じが落ち着いていて、年齢も29歳で確実に大人の男性だ。名前はうみさん。海が好きなのかも。

 彼が僕みたいな若い男を好きかどうかは不明だけど、ドライブが趣味で可愛い人が好みだと書かれている。188cm78キロの体格の良さから想像通りに勿論タチだ。醸し出す雰囲気が柔らかいせいか、良いねの数が半端ない。

 僕みたいに臆病者から人気があるのかもしれないな。


 僕はため息をついてスマホを放り出すと、ベッドに丸くなった。やっぱり知らない相手と顔を合わせるのは怖い。どうしてゲイアプリって基本身体目的なんだろう。僕みたいに手順を踏んで関係を構築したい人だっていると思うのに。

 周囲にゲイだって公言してる友人がいる訳でもないから、結局こうやって一人でウダウダ考えているだけで時間ばかりが過ぎていく。

 かと言ってゲイの集まる街に行く勇気も無いし、でもこのままじゃずっと寂しいままだ。僕はスマホをもう一度手に取ると、自分のプロフィールを眺めた。


 画像は部屋にある観葉植物。だから名前もグリーン。20歳大学生、174cm 62キロ、趣味の欄は読書と街歩き、好みのタイプは年上の落ち着いた人。僕が記入したのはこれだけ。経験がないから書けないけど、多分ネコなんだろうな。多分。

 それだけなのに随分良いねが送られてくる。アラフォーから来るのには笑ってしまった。確かに大人の男だけど、ちょっとキモい。どれだけ若い男が好きなのって思っちゃう。


 もし海さんから良いねが来たら、会うかもしれない。でも人気者の海さんが僕を見つけてくれる可能性は低いだろう。僕はベッドから身体を起こすと姿見の前に立った。

 アプリ内の大抵の画像が洗面所か姿見などで自撮りしたものだ。

 載せるかはまだ決心がつかないけれど、取り敢えず撮ってみようか。先ずはそこからだ。僕も前に進みたい。この冬は優しい大人の彼氏が欲しい。










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