人形の輪舞曲(ロンド)

美汐

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第四章 二つの桜

二つの桜1

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 久しぶりにやってきた母校は、部活をする生徒の声でとても賑わしかった。晴天の空は透き通るように青く、周りでは蝉たちの合唱が響き渡っていた。
 グランドでは野球部が暑いさなか、練習に励んでいる。その向こうでは陸上部が高跳びの練習をしていた。夏休みとはいえ、部活動は休みではないのだ。
 校舎の壁には水泳部全国大会出場の垂れ幕がかけられていて、部活動への熱い思いが伝わってくるようだった。自分の汗を流した日々がありありと蘇ってくる。
「やってるなー」
「サッカー部は今日は午後からかしらね」
「後輩の姿が見られなかったのはちょっと残念だな」
 僕がそう言うと、隣で歩いていた美鈴ちゃんが意外そうな顔をした。今日は学校に用ということもあり、セーラー服姿だ。熊田兄のほうは、今日は他に用事があったようで来ていない。
「あれ? 間木田さん、サッカー部だったんですか?」
「そうだけど、……意外かな?」
「あ、いえ。あたしソフト部だったからよくグランド使ってたんで、サッカー部の練習とかも見る機会多かったんです。だからきっと間木田さんのことも見たことあるはずですよね」
 美鈴ちゃんは少し悩んだような困った顔をした。
 つまり、記憶がないということか。まあ、弱小チームだったし、僕も目立つほうではなかったから、仕方がないと言えば仕方がない。
 しかし、なんとなくショックだ。僕は空笑いをするしかなかった。
 グランドをあとにすると、僕たちは来客用の通用口から校舎の中へと入っていった。
「なんか、ついこの間まで生徒だったのに、今はお客さんなんて妙な気分ですね」
「そう? 私はなんとも思わないけど。まあ、この客用スリッパが堂々と履けるのは気分がいいわね」
 ミナミはそう言って、下駄箱に置かれてあった緑色のスリッパを取り出して履いた。僕と美鈴ちゃんもそれに倣ってスリッパに足を入れる。
 ミナミの今日の服装は、白のチュニックに花柄のフレアスカートだった。服装が違うだけで、いつもより優しい印象に見えるから不思議だ。
 入ってすぐのところにある職員室に入ると、数人の職員の姿が見えた。それぞれ、自分のデスクで仕事をしているようだった。
「あら、お客さん?」
 手前の席にいた小柄な女性教師が、僕たちに気付いて話しかけてきた。見覚えがないことから、今年度から新しく入った先生のようである。
「あ、すみません。あたし三年二組の熊田美鈴ですけど、青山先生はいらっしゃいますか?」
 美鈴ちゃんが前に出てきてそう言うと、女性教師は美鈴ちゃんと僕たちを交互に見て、不思議そうな顔をした。
「あなたは青山先生のところの生徒さん? この方たちとはどういうご関係?」
「あの、私たちこの学校の卒業生なんです。彼女が学校に用があるというので、ついでに遊びに来ちゃいました」
 ミナミがにこやかにそう言うと、女性教師は納得したのか、「ちょっと待ってね」と言って職員室内を見渡した。
「あ、いたいた。青山先生! お客さんですよ」
 その呼びかけに気付き、立ち上がったのは黒縁眼鏡の男性教師だった。青山先生はこちらに気付くと、足早に近付いてきた。黒縁眼鏡で真ん中分けの髪型。少しエラの張っている顎が特徴的だ。
「あれ? きみは十倉さんだね。珍しいね。遊びに来たのかい?」
「はい。お久しぶりです」
 青山先生は、すぐにミナミに気が付いてそう言った。
「お久しぶりです。先生」
「ああ、久しぶり。ええと、きみは……」
「間木田です。間木田誠二」
「あ、ああ! 間木田くんね。確か陸上部だったっけ」
「サッカー部です」
 僕よりミナミの印象のが強いのはわかるが、ここまであからさまだと悲しいものがある。
「ああ、そうだったね! ごめんごめん。それで、きみたち僕になにか用かな?」
「あ、先生。あたしちょっと教室に忘れ物したみたいで、開けてもらいたいんですけど教室開けてもらっていいですか?」
「ああ、熊田さん。あれ? きみたち知り合い?」
 青山先生はそこで、美鈴ちゃんと僕たちが一緒に来たらしいことに気が付いた。
「あ、はい。あたし先輩たちと知り合いで、あたしが学校に用があると言ったら、懐かしいからついてきたいって」
「ああ、そうなの」
 若干無理がありそうな説明だったが、一応納得してもらえたようだ。
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