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後日譚・番外編置き場
ジョージ神父からお届けものです。(前編)
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番外編 ジョージ神父からお届けものです。
私――レネレットは、ふとした好奇心からオスカーの部屋を調べている。部屋の掃除をするふりをしてわざわざ忍び込んだのには訳がある。
お昼前のことだ。
豊穣の神殿に仕えているジョージ神父が縁結びの神殿であるここを訪ねてきた。ジョージ神父はオスカーの古くからの友人であり、私の実家であるゴットフリード伯爵家とも縁がある都合で私自身も世話になっている人物だ。今日の彼はオスカーに届け物があって訪ねてきたらしかった。
「――私がお預かりしましょうか?」
急な来訪だったため、オスカーは他の参拝客の相手をしている。すぐに出てこられないことを知っていた私が尋ねると、ジョージ神父はふむと唸って面倒そうな顔をした。
「いや、やっぱり出直そうかな。すぐにほしいみたいなことを言っていたから持ってきたんだが、さすがに本人に直接渡したほうがいいものだし」
そう告げて私の視線を避けるように持ち直す。袋の中に入っているものは四角くてそこそこ質量があるように見える。大きさや形状を察するに、おそらく正体は書物だろう。
「神職に関連するものですか?」
オスカーも神父をしている。神父同士、何か必要なものがあって貸し借りをしているのかもしれない。祀っている神さまはそれぞれ違うが、同じ多神教の神さまに仕える者同士は仲がいい。
神職のお仕事に関してすぐに思い浮かばないあたり、まだまだ勉強が足りていないわね。
シスターの勉強を中心に神職の勉強をしているところであるが、未熟さを思い知る場面のほうがずっと多い。早く仕事を覚えて、オスカーに認めてもらわねばいけないのに、と私は密かに焦る。
すると、ジョージ神父は微苦笑を浮かべた。
「いえいえ、神職は関係ないかな」
「じゃあ、趣味?」
趣味かと尋ねてみたものの、オスカーの持つ具体的な趣味は思いつかなかった。
彼の料理は特技みたいだけど、趣味ではなさそうよね。そうなると、しいて言うなら、石を磨くこと……かしら? でも、それもただの特技のような気もするし……
いろいろ想像しながらジョージ神父の返答を待っていると、私の背後で物音がする。
「――おや、今日は約束をしていたでしょうか?」
振り向くと、神父の黒い衣装に身を包んだオスカーが近づいてきていた。何を着ても自然に着こなしてしまう彼だが、神父姿が一番素敵だと思う。見慣れた衣装のはずなのに、私の胸はときめいた。
オスカーは礼拝堂から戻ってきたところらしい。不思議そうな顔をして、眼鏡に触れた。見間違いを疑ったのかもしれない。
そんなオスカーに対し、ジョージ神父は片手を上げた。
「よう、オスカー。君の探し物を持ってきたぞ」
探し物? 何か頼んでいたってこと?
ジョージ神父の言葉を聞きながら、私はオスカーの顔を注意深く見つめる。
オスカーは一瞬なんのことを言っているのかわからないという顔をして、あ、っと小さな声を出す。そしてつかつかと足を早めてジョージ神父の前に立った。
「これはこれは、ご苦労様です」
そう告げるオスカーの笑顔が業務用だ。女性たちが思わず黄色い声を上げてしまうような素敵な笑顔なのだけれども、かなり意識しないとこれが作れないことを私はよくわかっている。
きっと何かあるわね。
女の勘というやつである。オスカーとジョージ神父の関係を考えてみても、何か特別なことを頼める間柄であるので、オスカー的に何か都合の悪いことを依頼している可能性は比較的高い。
「まさかレネレット嬢が先に出ると思わなかったから、出直そうかと思っていたところだ。会えてよかったよ」
ジョージ神父のほうもハンサム顔をにこやかにして、袋をオスカーに手渡した。受け渡しに慎重さを感じないことから、高価だったり壊れやすかったりするものではなさそうだ。
「んじゃ、俺はこれで。レネレット嬢と仲よくやるんだぞ」
手を振るふりをして袋を指差しながら言うジョージ神父に、オスカーはあからさまに敵意がにじむ視線を送りながら唇を動かした。
「一言多い」
「はっはっは!」
愉快げに大きく笑うと、ジョージ神父は玄関から出て行った。
毎度ながら賑やかに去っていく人である。ジョージ神父がいなくなるととても静かだ。
「――で、それはなんなの?」
「秘密です」
即答。オスカーは大事そうに袋を抱きしめると、さっさと歩き出す。横から手を出して奪おうかと考えていたのに、オスカーの行動は早い。
「昼食の準備、始めておいてください。すぐに合流しますので」
「あ、はい」
指示されてしまうと、オスカーを追いかけることができない。私は渋々引き下がり、昼食の準備に向かうことにする。
今日のオスカーのスケジュールを思い出してみると、私がこっそり行動する時間はありそうだ。彼の目を盗んでジョージ神父から受け取ったものの正体を暴くことは可能だろう。
なーんか怪しいもんね。こっそり見て、元あったように返せばいいわ。
そして昼食後、オスカーの部屋に私はやってきたのだった。
うふふ。あれはきっと本に違いないわ。でも、どんな本なのかしら? オスカー本人に直接渡したい本って。
あの様子だとお仕事関連ではないのだろう。
また、危険な書物だったり重要な書物だったりするのであれば、あんな風にどこにでもある布袋に入れて寄越したりしないはずだ。となると、物語などの娯楽小説だと考えるのが妥当か。
オスカーが秘密にしたがるってことは、私に隠れて読みたいものってことだろうし、俄然気になるわよね。
彼のことをもっと知りたいと考えている私としては、これは好機である。少しでもオスカーに近づきたい。
あまりのんびりしていられないので、すぐさま部屋の捜索を開始する。しかし、ベッドの上にも、執務机にもジョージ神父から受け取った袋はない。オスカーが荷物をしまうために自室に入っていったのは、彼が部屋から出てきたところを見たのでほぼ間違いないと思ったのだが。
となると、ここはやっぱりベッドの下よね! 定番中の定番!
さっとしゃがんで覗き込むと、そこにはお目当の袋があった。引っ張り出してみると色も形状も一致している。移し替えていなければこれに違いない。
「ずいぶんとわかりやすく隠してあったわね……」
慌てていたのか、それとも私が部屋には入らないとでも思っていたのか。とりあえず私は無事に目的のものを発見できた。さっそく中身をあらためることにする。
袋の口を開き、中身を取り出す。やはり予想どおり、出てきたのは書物だった。触り心地のいい新しい表紙で、ペラペラとめくると最新の活版技術で刷られたものらしいことがわかる。表紙の雰囲気からしても神殿の所有物ではなさそうだ。
じゃあ、なんの本なんだろう?
挿絵はない。となると、読んでみるしかなさそうだ。タイトルの雰囲気はロマンス小説風。オスカーが読みそうな本には思えない。
まさか、小説を読んで恋愛の勉強をしようとか考えているんじゃないでしょうね……
一応は夫婦という関係ではあるのだが、オスカーが私を愛しているのか、疑問に思うことがしばしばある。私の片思いのような気がして、寂しく感じるのだ。そこについてはオスカーの愛情表現が少々一般と異なるから仕方のないことだと割り切ってもいいのだけれど、どうにも感情のほうで折り合いがつかない。
推理小説だったら、犯人をバラして嫌がらせをしてやろう。
隠れてコソコソすることが許せなかった私は、そう密かに誓ってページをめくった。
私――レネレットは、ふとした好奇心からオスカーの部屋を調べている。部屋の掃除をするふりをしてわざわざ忍び込んだのには訳がある。
お昼前のことだ。
豊穣の神殿に仕えているジョージ神父が縁結びの神殿であるここを訪ねてきた。ジョージ神父はオスカーの古くからの友人であり、私の実家であるゴットフリード伯爵家とも縁がある都合で私自身も世話になっている人物だ。今日の彼はオスカーに届け物があって訪ねてきたらしかった。
「――私がお預かりしましょうか?」
急な来訪だったため、オスカーは他の参拝客の相手をしている。すぐに出てこられないことを知っていた私が尋ねると、ジョージ神父はふむと唸って面倒そうな顔をした。
「いや、やっぱり出直そうかな。すぐにほしいみたいなことを言っていたから持ってきたんだが、さすがに本人に直接渡したほうがいいものだし」
そう告げて私の視線を避けるように持ち直す。袋の中に入っているものは四角くてそこそこ質量があるように見える。大きさや形状を察するに、おそらく正体は書物だろう。
「神職に関連するものですか?」
オスカーも神父をしている。神父同士、何か必要なものがあって貸し借りをしているのかもしれない。祀っている神さまはそれぞれ違うが、同じ多神教の神さまに仕える者同士は仲がいい。
神職のお仕事に関してすぐに思い浮かばないあたり、まだまだ勉強が足りていないわね。
シスターの勉強を中心に神職の勉強をしているところであるが、未熟さを思い知る場面のほうがずっと多い。早く仕事を覚えて、オスカーに認めてもらわねばいけないのに、と私は密かに焦る。
すると、ジョージ神父は微苦笑を浮かべた。
「いえいえ、神職は関係ないかな」
「じゃあ、趣味?」
趣味かと尋ねてみたものの、オスカーの持つ具体的な趣味は思いつかなかった。
彼の料理は特技みたいだけど、趣味ではなさそうよね。そうなると、しいて言うなら、石を磨くこと……かしら? でも、それもただの特技のような気もするし……
いろいろ想像しながらジョージ神父の返答を待っていると、私の背後で物音がする。
「――おや、今日は約束をしていたでしょうか?」
振り向くと、神父の黒い衣装に身を包んだオスカーが近づいてきていた。何を着ても自然に着こなしてしまう彼だが、神父姿が一番素敵だと思う。見慣れた衣装のはずなのに、私の胸はときめいた。
オスカーは礼拝堂から戻ってきたところらしい。不思議そうな顔をして、眼鏡に触れた。見間違いを疑ったのかもしれない。
そんなオスカーに対し、ジョージ神父は片手を上げた。
「よう、オスカー。君の探し物を持ってきたぞ」
探し物? 何か頼んでいたってこと?
ジョージ神父の言葉を聞きながら、私はオスカーの顔を注意深く見つめる。
オスカーは一瞬なんのことを言っているのかわからないという顔をして、あ、っと小さな声を出す。そしてつかつかと足を早めてジョージ神父の前に立った。
「これはこれは、ご苦労様です」
そう告げるオスカーの笑顔が業務用だ。女性たちが思わず黄色い声を上げてしまうような素敵な笑顔なのだけれども、かなり意識しないとこれが作れないことを私はよくわかっている。
きっと何かあるわね。
女の勘というやつである。オスカーとジョージ神父の関係を考えてみても、何か特別なことを頼める間柄であるので、オスカー的に何か都合の悪いことを依頼している可能性は比較的高い。
「まさかレネレット嬢が先に出ると思わなかったから、出直そうかと思っていたところだ。会えてよかったよ」
ジョージ神父のほうもハンサム顔をにこやかにして、袋をオスカーに手渡した。受け渡しに慎重さを感じないことから、高価だったり壊れやすかったりするものではなさそうだ。
「んじゃ、俺はこれで。レネレット嬢と仲よくやるんだぞ」
手を振るふりをして袋を指差しながら言うジョージ神父に、オスカーはあからさまに敵意がにじむ視線を送りながら唇を動かした。
「一言多い」
「はっはっは!」
愉快げに大きく笑うと、ジョージ神父は玄関から出て行った。
毎度ながら賑やかに去っていく人である。ジョージ神父がいなくなるととても静かだ。
「――で、それはなんなの?」
「秘密です」
即答。オスカーは大事そうに袋を抱きしめると、さっさと歩き出す。横から手を出して奪おうかと考えていたのに、オスカーの行動は早い。
「昼食の準備、始めておいてください。すぐに合流しますので」
「あ、はい」
指示されてしまうと、オスカーを追いかけることができない。私は渋々引き下がり、昼食の準備に向かうことにする。
今日のオスカーのスケジュールを思い出してみると、私がこっそり行動する時間はありそうだ。彼の目を盗んでジョージ神父から受け取ったものの正体を暴くことは可能だろう。
なーんか怪しいもんね。こっそり見て、元あったように返せばいいわ。
そして昼食後、オスカーの部屋に私はやってきたのだった。
うふふ。あれはきっと本に違いないわ。でも、どんな本なのかしら? オスカー本人に直接渡したい本って。
あの様子だとお仕事関連ではないのだろう。
また、危険な書物だったり重要な書物だったりするのであれば、あんな風にどこにでもある布袋に入れて寄越したりしないはずだ。となると、物語などの娯楽小説だと考えるのが妥当か。
オスカーが秘密にしたがるってことは、私に隠れて読みたいものってことだろうし、俄然気になるわよね。
彼のことをもっと知りたいと考えている私としては、これは好機である。少しでもオスカーに近づきたい。
あまりのんびりしていられないので、すぐさま部屋の捜索を開始する。しかし、ベッドの上にも、執務机にもジョージ神父から受け取った袋はない。オスカーが荷物をしまうために自室に入っていったのは、彼が部屋から出てきたところを見たのでほぼ間違いないと思ったのだが。
となると、ここはやっぱりベッドの下よね! 定番中の定番!
さっとしゃがんで覗き込むと、そこにはお目当の袋があった。引っ張り出してみると色も形状も一致している。移し替えていなければこれに違いない。
「ずいぶんとわかりやすく隠してあったわね……」
慌てていたのか、それとも私が部屋には入らないとでも思っていたのか。とりあえず私は無事に目的のものを発見できた。さっそく中身をあらためることにする。
袋の口を開き、中身を取り出す。やはり予想どおり、出てきたのは書物だった。触り心地のいい新しい表紙で、ペラペラとめくると最新の活版技術で刷られたものらしいことがわかる。表紙の雰囲気からしても神殿の所有物ではなさそうだ。
じゃあ、なんの本なんだろう?
挿絵はない。となると、読んでみるしかなさそうだ。タイトルの雰囲気はロマンス小説風。オスカーが読みそうな本には思えない。
まさか、小説を読んで恋愛の勉強をしようとか考えているんじゃないでしょうね……
一応は夫婦という関係ではあるのだが、オスカーが私を愛しているのか、疑問に思うことがしばしばある。私の片思いのような気がして、寂しく感じるのだ。そこについてはオスカーの愛情表現が少々一般と異なるから仕方のないことだと割り切ってもいいのだけれど、どうにも感情のほうで折り合いがつかない。
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