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エリートオメガ受佐美の秘密
6※挿絵付
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上司の声がオフィスに響く。
「受佐美。明日のプレゼンなんだが……。」
「はい。」
受佐美はすっと立ち上がり、手元のファイルを持って上司のデスクへ向かう。
その背筋はいつも通り、きりりと伸びて隙がない。
だが攻田の目は別のものに釘付けだった。
受佐美が立ち去ったあとのデスク。
椅子の脇に置かれたバッグの口が、わずかに開いている。
(……見せてもらうしかない。)
心臓が早鐘を打つ。
周囲をちらと確認し、何食わぬ顔で立ち上がった。
持っていた書類を小道具に、さりげなく近づく。
バッグの中に指を滑り込ませる。
内ポケットの奥に硬い感触。
指先で引き寄せると、小さなピルケースが覗いた。
(……これだ。)
息を殺し、震える手でひと粒だけ摘み出す。
すぐに元に戻し、何事もなかったかのようにデスクの上に書類を置く。
「攻田?」
その声に体が硬直した。
振り返ると、もう受佐美が戻ってきていた。
「あっ、先輩。デスクに書類、置いときました。」
無理やり笑顔を作ると、受佐美は怪訝な目を向けながらも「ああ」と短く応じ、椅子に腰を下ろした。
攻田はごく自然を装って自席に戻り、ポケットの中で小さな薬をぎゅっと握りしめた。
夜。
帰宅しても胸のざわめきは収まらなかった。
攻田は部屋の電気も点けず、ただパソコンの前に座り込む。
ポケットからあの錠剤を取り出すと、しばらく見つめた後、震える指でキーボードを叩き始めた。
「……オメガ 抑制剤……。」
検索ボタンを押すと、瞬時に無数の結果が表示される。
その中のひとつをクリックし、固唾を飲んで読み進める。
『フェロモン抑制剤。オメガのフェロモンを抑制する為のお薬です。一日一錠。副作用……』
思わず手が震えた。
自分の掌にある薬と、画面の画像を見比べる。
完全に一致している。
「……嘘だろ……。」
呆然とつぶやく。
脳裏をよぎるのは、昼間見た受佐美の後ろ姿。完璧なエリート、誰もが認めるアルファの象徴。
(……でも、もし本当に……?)
現実感が揺らぎ、心臓が異様な速さで打ち鳴らす。
目を閉じると、タクシーの中で感じたあの香りが、再び鼻先をかすめた気がした。
「……先輩が……オメガ……?」
夜の静寂の中、攻田はひとり、信じたくない現実を目の前にして立ち尽くしていた。
「受佐美。明日のプレゼンなんだが……。」
「はい。」
受佐美はすっと立ち上がり、手元のファイルを持って上司のデスクへ向かう。
その背筋はいつも通り、きりりと伸びて隙がない。
だが攻田の目は別のものに釘付けだった。
受佐美が立ち去ったあとのデスク。
椅子の脇に置かれたバッグの口が、わずかに開いている。
(……見せてもらうしかない。)
心臓が早鐘を打つ。
周囲をちらと確認し、何食わぬ顔で立ち上がった。
持っていた書類を小道具に、さりげなく近づく。
バッグの中に指を滑り込ませる。
内ポケットの奥に硬い感触。
指先で引き寄せると、小さなピルケースが覗いた。
(……これだ。)
息を殺し、震える手でひと粒だけ摘み出す。
すぐに元に戻し、何事もなかったかのようにデスクの上に書類を置く。
「攻田?」
その声に体が硬直した。
振り返ると、もう受佐美が戻ってきていた。
「あっ、先輩。デスクに書類、置いときました。」
無理やり笑顔を作ると、受佐美は怪訝な目を向けながらも「ああ」と短く応じ、椅子に腰を下ろした。
攻田はごく自然を装って自席に戻り、ポケットの中で小さな薬をぎゅっと握りしめた。
夜。
帰宅しても胸のざわめきは収まらなかった。
攻田は部屋の電気も点けず、ただパソコンの前に座り込む。
ポケットからあの錠剤を取り出すと、しばらく見つめた後、震える指でキーボードを叩き始めた。
「……オメガ 抑制剤……。」
検索ボタンを押すと、瞬時に無数の結果が表示される。
その中のひとつをクリックし、固唾を飲んで読み進める。
『フェロモン抑制剤。オメガのフェロモンを抑制する為のお薬です。一日一錠。副作用……』
思わず手が震えた。
自分の掌にある薬と、画面の画像を見比べる。
完全に一致している。
「……嘘だろ……。」
呆然とつぶやく。
脳裏をよぎるのは、昼間見た受佐美の後ろ姿。完璧なエリート、誰もが認めるアルファの象徴。
(……でも、もし本当に……?)
現実感が揺らぎ、心臓が異様な速さで打ち鳴らす。
目を閉じると、タクシーの中で感じたあの香りが、再び鼻先をかすめた気がした。
「……先輩が……オメガ……?」
夜の静寂の中、攻田はひとり、信じたくない現実を目の前にして立ち尽くしていた。
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