Boy Meets Boy

Boy Meets Boy

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電車の揺れが、車内の空気をゆっくりと波打たせる。  
つり革がきしみ、窓ガラスに映る夜景が、途切れ途切れに切り替わっていく。  
その光景は、まるで日常の断片が次々と流れていくようだった。  

愛兎はスマホの画面を眺めながら、隣の女子高生たちの会話に耳を傾ける。  

「何か楽しいことないかなぁ？」  
「ないない。」  
「っていうかさ、学校休みになるような…」  
「例えば？」  
「学校爆破されたり、急にデスゲームとか始まったら楽しくない？」  
「え？怖いって。」  
「それよりさ、新作コスメ買えたんだよね。」  
「えー、いいなぁ！どこ行っても売り切れなんだよねぇ。」  
「駅前のドラッグストアで買えたよ？ まだ残ってるか分かんないけど。」  
「えー、今から行こっかなぁ。」  

彼女たちの声は軽やかで、何の躊躇もなく、ただ日常を楽しんでいるようだった。  
愛兎は無意識にスマホをなぞる。  
その指先の動きは、どこか所在なげだった。  

電車の進む先は変わらず、次の駅が近づいてくる。  
だが、今日は降りるべきかどうか、一瞬迷った。  
このまま終点まで行ってみるのも、悪くないかもしれない。そんな考えが胸をよぎる。  


そして、夜の静寂を乱すように、ひとつの部屋のドアが開いた。  

フードを深くかぶった男が、黒い荷物を抱えながら足早に外へ出る。  
部屋の中は荒れていた。  
引き出しは無造作に開けられ、床には小物が散らばっている。  
まるで嵐が通り過ぎた後のような光景だった。  

「でさぁ…って、嘘！ ヤバいっ！」  
突然響く女性の声。焦りが募っているのが分かる。  

「部屋荒らされてる！ 空き巣かも！」  

男は一瞬だけ振り返った。  
彼女が警察を呼ぶ前に、逃げなければならない。  

窓を開け、迷いなく飛び降りる。  

路地裏に降り立った男。恋は、夜の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。  
冷たい風が頬を撫で、遠くで車のエンジン音が響いている。  
だが、息を整える間もなく、目の前に立つ少年と鉢合わせた。  

それは制服姿の高校生。  

「……え？」  

愛兎は、突然目の前に現れたフード姿の男を見て、一瞬身をすくませた。  
その手に抱えられた黒い荷物が、妙に不穏に見えた。  

「……あの、空き巣に入られたみたいなんですけど！」  
女が警察に電話をかけている声が、遠くから聞こえる。  
恋の目が細められる。  

「窓が開いてて……」  

愛兎が口を開こうとしたその瞬間。  
恋が手を掴んだ。  

「走るぞ。」  
「えっ……！」  

足が勝手に動き、夜の街へと駆け出していく。  
路地裏の影が二人を包み込み、遠くの街灯がぼんやりと揺れていた。  

【登場人物】
受田愛兎うだ　あいと
高校生

攻ノ池恋こうのいけ　れん
謎の男