Boy Meets Boy

TERRA

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Boy Meets Boy

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工場の扉は少し錆びついていて、開くたびに重たい音を響かせる。  
夜の冷たい空気が入り込み、埃っぽい香りと混ざり合い、微かに湿った鉄の匂いが鼻をかすめた。  
蛍光灯の明かりがぼんやりと天井を照らすものの、その光は弱々しく、工場の奥はまだ闇に沈んでいる。  

恋は何事もなかったようにソファへ向かい、どさっと腰を下ろした。  
革張りのソファは薄くひび割れ、座った瞬間、古びたクッションがわずかに沈む。  

愛兎は部屋の隅に立ったまま、薄暗い空間を見渡す。  
窓際には埃をかぶった工具箱が無造作に積まれ、かつて工場だった名残を感じさせる。  
この場所には誰の気配もないはずなのに、妙な安心感があった。  

「はぁ……マジ助かった。」  
恋は肩を軽く回しながら、短く息を吐く。  
愛兎はまだ緊張した様子で、落ち着かない手つきをしていた。  

「お前、いい奴だな。」  
不意に言われた言葉に、愛兎は小さく瞬きをする。  
どういう意味なのか考える間もなく、恋はスマホを取り出して画面をいじる。  

「お礼に、いいことしてあげよっか?」  
「えっ……」  

愛兎は思わず身をこわばらせた。  
冗談なのか本気なのか、一瞬判断がつかない。  

恋は軽く笑い、少しだけ目を細めた。  
「なに真に受けてんの?」  

テーブルにはタバコ、ジッポ、そして一本のナイフが雑に置かれている。  
そのナイフの刃が、蛍光灯の光を鈍く反射しているのが目に留まる。  

愛兎はふと、そのナイフに目を向けた。  
そして、なんとなく手を伸ばし、そっと取る。  

「んー……これでよしっと。」  
恋はスマホに夢中で、そんな愛兎の行動を見ていなかった。

だが、その瞬間、手元が狂う。  
ナイフの刃が反動で押され、指先をかすめた。  

「……っ!」  
鋭い痛みが走り、赤いしずくがぽたぽたと落ちる。  

「えっ?」  
状況を把握した恋はすぐに立ち上がり、愛兎の腕を掴んだ。  

「こっち来て。」  

水道の前まで連れて行かれ、水を流される。  
冷たい水が傷口に染みるたび、愛兎は小さく息を飲んだ。  
「このまま冷やしといて。」  

恋は手際よくベルトを外し、愛兎の二の腕を締める。  

「……っ。」  
愛兎が声を上げると、恋は棚をガチャガチャと探り始めた。  

「もういい?」  
「あ……?」  

愛兎がびくっと肩をすくめると、恋は古びた酒のボトルを取り出した。  

「消毒液の代わり。」  

「痛っ……!」  
鋭い痛みに息を詰める愛兎。  

「我慢しろって。自業自得だろ。」  

恋はそう言って、タオルを細く切ると、包帯代わりに傷口に巻いた。  
手際は慣れたもので、まるで何度もこういう場面に遭遇しているかのようだった。  

愛兎は目をそっと伏せる。  
痛みはあるものの、どこか少しだけ安心している自分に気付く。  

その時スマホが光り、かすかに震えた。  
恋は画面を確認し、ふっと笑った。  

「ピザが届いた。」  

工場の入口へ向かい、大きな箱を抱えて戻る。  

「じゃじゃーんっ。」  

テーブルに置かれたピザを見て、愛兎は思わず表情をゆるめた。  
熱気がこもった箱から、チーズの濃厚な香りが立ち上る。  

「ピザとか嫌い?」  
「いや……好きだけど。」  

「なら食おうぜ。」  

恋は軽く笑いながら、一切れを取り上げた。  

「……あの。」  
「ん?」  

「さっき、なんで窓から降ってきたんですか?」  

恋はピザを口に運びながら、ふっと息を吐く。  
「あー、あれ?何でだと思う?」  

愛兎は眉をひそめながら、恋を見つめる。  
「さっきから全然質問に答えてくれないですね。」  

恋はピザをかじりながら、肩を軽くすくめた。  
「敬語とかいいよ。」  

「へっ?」  

「つか、自己紹介もしてなかったっけ。俺は恋。お前は?」  

「……愛兎。」  
「ふーん。愛ちゃんね。」  

恋はふっと笑いながら愛兎を見つめた。  
その笑みには、どこか探るような色が混ざっていた。  

「この秘密基地ってさ、愛ちゃん家の持ちもんなの?」  
「え? あ……そうですけど。」  

「廃工場みたいなのに水も電気も通ってるし、寝床まであるけどさ。よく家出してここで暇潰してんの?」  

愛兎は少しだけ視線を落とす。  
ここは元々、祖父の持ち物だった。
今は季節モノをしまう為だけのレンタルスペース代わりの倉庫になってはいるが。

「子供の頃は友達の家で子犬をもらって、ここで育てたりしてたけど……最近はあんまり来る時間もなくて。」  

恋はピザを口に運びながら、愛兎をじっと見つめる。  
「そういえば時間、大丈夫?」  

「え?」  
「制服だし、家の人心配してない?」  

愛兎はその言葉に驚き、少し顔を赤らめる。  
「俺、人質か何かだと思ってたんだけど。」  

恋はその言葉に吹き出した。  
「マジ?」  

そして真っ直ぐに愛兎を見た。

「なら人質さん、これから何して遊ぼっか?」  
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