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Boy Meets Boy
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車内は静かだった。
水族館を出てすぐに愛兎は助手席で眠り込んだ。
窓の外に流れる街の灯り。
恋はハンドルを握りながら、無言のまま車を走らせる。
しばらくして、廃工場の前を通りかかった。
視線を向けると、そこにはパトカーが止まっていた。
一瞬だけハンドルを握る指に力がこもる。
だが、恋は速度を落とすことなく、そのまま車を発進させた。
目的地を変える。
車内は静かだった。
エンジンの低い振動が眠りを誘い、愛兎は窓にもたれながらゆっくりと呼吸を繰り返していた。
街の光は遠ざかり、景色は次第に闇へと溶け込んでいく。
どこか冷たい空気が流れ始めた頃、愛兎は微かに身じろぎし、ゆっくりと目を開けた。
「ん…」
視界がぼんやりと霞み、しばらく焦点が合わない。
次第に頭が覚醒すると同時に、肌に触れる空気がこれまでとは違うことに気づいた。
夜の匂いが濃い。
湿った土の香り、木々の葉が揺れるかすかな音。
窓の向こうには、街の光がひとつも見えなかった。
「……っ?」
愛兎は体を起こし、ゆっくりと外を見た。
そこは山道だった。
街から遠く離れた、暗い山の中。
「……って、ここどこ?」
声を発すると、恋はふっと笑いながらハンドルを軽く叩いた。
「んー……愛ちゃんのこと、埋めよっかなって。」
「……へっ?」
愛兎は一瞬息を詰める。
恋は何気なくそう言いながら、ブレーキを踏み、車をゆっくりと停めた。
まるで目的地に着いたかのような自然な動作。
「ふ、冗談冗談。」
恋はそう言いながらドアを開ける。
愛兎はまだ状況を飲み込めずにいた。
廃工場へ戻るはずだったのに、なぜこんな場所に?
冗談、なのか?
「ほら、降りて。」
恋が軽く促す。
愛兎は戸惑いながらも、車を降りる。
足元に触れる地面は、舗装された道路ではなく、わずかに湿った土の感触だった。
風が吹き抜ける。
目の前に広がる景色は、そんな不安をほんの少し忘れさせるほどだった。
遥か下に広がる街の灯り。まるで宇宙から地球を見下ろしているような光景。
無数の光が地図のように交わり、淡く輝いている。
恋はポケットに手を突っ込みながら、その景色を眺める。
「いつもここで女のコ落としてるの?」
愛兎は冗談のつもりで言ったが、どこか落ち着かない気持ちが残っていた。
「俺はこっちより、上の景色の方が好きなんだけど。」
恋がゆっくりと夜景から目を離し、空を指差した。
「……え?」
愛兎はその指の先を追った。
その瞬間、息をのんだ。
星空。
天頂に広がる無数の星々。
黒い空に浮かぶそれらは、まるで手を伸ばせば掴めるほど近い気がした。
夜景の煌めきとは違う、冷たく静かな光。
「わ……ホントだ、すごい綺麗。」
愛兎の声は無意識に漏れたものだった。
恋は肩をすくめながら、微かに笑う。
「……でしょ?」
愛兎はその横顔を見つめる。
今まで感じていた違和感や、不安がすっと消えていくような気がした。
こんな夜景を、こんな星空を、こんな静寂を。この人は一体、何人と見てきたのだろう。
そして、それらはすべて冗談なのか、それとも。
愛兎はただ黙って星を見上げたまま、その答えを探そうとした。
水族館を出てすぐに愛兎は助手席で眠り込んだ。
窓の外に流れる街の灯り。
恋はハンドルを握りながら、無言のまま車を走らせる。
しばらくして、廃工場の前を通りかかった。
視線を向けると、そこにはパトカーが止まっていた。
一瞬だけハンドルを握る指に力がこもる。
だが、恋は速度を落とすことなく、そのまま車を発進させた。
目的地を変える。
車内は静かだった。
エンジンの低い振動が眠りを誘い、愛兎は窓にもたれながらゆっくりと呼吸を繰り返していた。
街の光は遠ざかり、景色は次第に闇へと溶け込んでいく。
どこか冷たい空気が流れ始めた頃、愛兎は微かに身じろぎし、ゆっくりと目を開けた。
「ん…」
視界がぼんやりと霞み、しばらく焦点が合わない。
次第に頭が覚醒すると同時に、肌に触れる空気がこれまでとは違うことに気づいた。
夜の匂いが濃い。
湿った土の香り、木々の葉が揺れるかすかな音。
窓の向こうには、街の光がひとつも見えなかった。
「……っ?」
愛兎は体を起こし、ゆっくりと外を見た。
そこは山道だった。
街から遠く離れた、暗い山の中。
「……って、ここどこ?」
声を発すると、恋はふっと笑いながらハンドルを軽く叩いた。
「んー……愛ちゃんのこと、埋めよっかなって。」
「……へっ?」
愛兎は一瞬息を詰める。
恋は何気なくそう言いながら、ブレーキを踏み、車をゆっくりと停めた。
まるで目的地に着いたかのような自然な動作。
「ふ、冗談冗談。」
恋はそう言いながらドアを開ける。
愛兎はまだ状況を飲み込めずにいた。
廃工場へ戻るはずだったのに、なぜこんな場所に?
冗談、なのか?
「ほら、降りて。」
恋が軽く促す。
愛兎は戸惑いながらも、車を降りる。
足元に触れる地面は、舗装された道路ではなく、わずかに湿った土の感触だった。
風が吹き抜ける。
目の前に広がる景色は、そんな不安をほんの少し忘れさせるほどだった。
遥か下に広がる街の灯り。まるで宇宙から地球を見下ろしているような光景。
無数の光が地図のように交わり、淡く輝いている。
恋はポケットに手を突っ込みながら、その景色を眺める。
「いつもここで女のコ落としてるの?」
愛兎は冗談のつもりで言ったが、どこか落ち着かない気持ちが残っていた。
「俺はこっちより、上の景色の方が好きなんだけど。」
恋がゆっくりと夜景から目を離し、空を指差した。
「……え?」
愛兎はその指の先を追った。
その瞬間、息をのんだ。
星空。
天頂に広がる無数の星々。
黒い空に浮かぶそれらは、まるで手を伸ばせば掴めるほど近い気がした。
夜景の煌めきとは違う、冷たく静かな光。
「わ……ホントだ、すごい綺麗。」
愛兎の声は無意識に漏れたものだった。
恋は肩をすくめながら、微かに笑う。
「……でしょ?」
愛兎はその横顔を見つめる。
今まで感じていた違和感や、不安がすっと消えていくような気がした。
こんな夜景を、こんな星空を、こんな静寂を。この人は一体、何人と見てきたのだろう。
そして、それらはすべて冗談なのか、それとも。
愛兎はただ黙って星を見上げたまま、その答えを探そうとした。
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