Boy Meets Boy

Boy Meets Boy

15

夜の公園は、ひっそりと静まり返っていた。  
街の喧騒から少し離れた場所。  
風に揺れるブランコの鎖が、ギコギコと微かな音を立てる。  

愛兎はブランコに腰掛け、靴先で地面をなぞっていた。  
視線をどこにも定めないまま、深く息を吐く。  

「はぁ……ここ、何処だろう？」  

見慣れた街の灯りは遠く、周囲には誰もいない。  
この時間、公園には子供の笑い声もなく、ただ虫の鳴き声が響くだけ。  

愛兎は空を仰ぐ。  
夜の闇は深く、星がぽつりぽつりと浮かんでいた。  
時間が止まったみたいに感じる。  

その時。  
隣のブランコに、誰かが腰を下ろす音がした。  

愛兎は驚いて顔を向ける。  

「……何で居るの？」  

恋だった。  
いつの間にかそこにいて、自然に座っている。  
まるでずっと前からそこにいたような顔をして。  

恋はブランコの鎖を軽く握りながら、何でもないように答えた。  

「なんでだろうね。」  

愛兎は言葉を失い、ただ恋を見つめる。  
静寂の中、風がゆっくりと吹き抜けた。  

恋はふっと息を吐き、ポケットから何かを取り出す。  

「てかさぁ、定期落としてたよ？」  

その手の中にあるのは、愛兎の定期だった。  

愛兎は目を見開いたまま、定期を受け取る。  

恋はじっと愛兎の制服を眺めながら、冷静に言った。  

「愛ちゃんて、嘘つきだよね。」  
「……。」  

「その制服に、この定期の駅。」  

恋の言葉は淡々としているのに、じわりと胸を締め付けるようだった。  

「何であんなとこに居たの？」  

愛兎は何も言えず、指先で定期を撫でる。  

「つーか、家もこの辺じゃないでしょ？」  

夜の空気が静かに沈む。  

公園の外から、遠くの車のエンジン音が微かに聞こえる。  
風が頬を撫でるたび、街の明かりがゆっくりと揺れていた。  

愛兎はただ、黙ったまま定期を握りしめる。  

恋はそれ以上何も言わず、ブランコの鎖をゆっくりと揺らしていた。