OUTSIDER

TERRA

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日常編:ヅィハオ✕イスズ/ヤクザとダメンズ

待ち人来たる

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玄関の扉が静かに開く。
「……ただいま。」
低く落ち着いた声とともに、鷲宮が帰ってきた。

しかし、リビングに足を踏み入れるなり、すぐに不服そうな視線を感じる。
「……鷲宮さん、遅すぎ。」

ソファに座っていた五十鈴は頬をふくらませ、ムッとしながら立ち上がった。
「何日も音信不通で、俺、寂しかったんだけど!」

そう言うなり、勢いよく鷲宮に抱きついた。
まるで子供が駄々をこねるように腕を回し、ぎゅっと拗ねた顔で鷲宮を見上げる。

鷲宮はため息をつきながら、五十鈴の頭を軽く撫でた。
「急に大陸へ行くことになったんだ。連絡できなくて悪かった。」

「……ほんとに仕事?」
「仕事だ。」

五十鈴はその言葉に、密かに安堵した。
(浮気とかじゃなかったんだ。)

そう思いながら、腕の中にある高級そうな深紅の紙袋に気づく。
「……これ、何?」

鷲宮は紙袋を差し出しながら、静かに答えた。
「お前への土産だ。」

五十鈴は紙袋を受け取り、中を覗き込んだ。
「……うわっ、いい香りがする!」

中には高級な中国茶と、香炉と合わせたお香。
「これ、中国らしくて雰囲気あるねぇ……!」

五十鈴は喜びながら、ひとつひとつ取り出して眺める。
「せっかくだし、お香も焚きたい!」

鷲宮は頷き、静かに香炉に火を灯した。
ほのかな煙とともに、穏やかで落ち着いた香りが部屋に広がる。
「……落ち着くねぇ。」

そして、いくつかのお茶の中で、ひとつだけ目を引くものがあった。
「これ、何?」

丸く固められた茶葉が、まるで小さな蕾のような形をしている。
「工芸茶だ。」

「……え、そんなロマンあるお茶あるの?」
五十鈴の目が一瞬で輝く。
「それ、今飲みたい!」

鷲宮は微かに笑いながら、慣れた手つきで急須を準備し始めた。
湯気が立ちのぼるポットから、静かにお湯が注がれる。

丸まっていた茶葉がゆっくりとほどけ、柔らかく開いていく。
「……うわぁ。」

五十鈴は湯気の向こうの茶葉をじっと眺めながら、嬉しそうに声を漏らした。
「ほんとに花みたいになった!」

鷲宮は茶を湯のみに注ぎながら、静かに答える。
「こういう茶は、見ても楽しめるものだ。」
「最高だねぇ。」

五十鈴は湯呑みを手に取り、ゆっくりと口をつける。
鷲宮も静かに茶を飲みながら、窓の外の雨を眺めた。

こうして、仕事帰りの静かな夜は、二人だけの穏やかな時間へと変わっていった。
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