黄泉ノ彼岸葬儀店

EP.3Lost Echoes失われたこだま

6

光が滲み、空間が揺らぐ。  

まるで夢の中へ引き込まれるような感覚。  

気がつけば、二人は全く違う場所へ立っていた。  

そこは、山の頂。  

朝焼けの光が、ゆっくりと世界を染めていく。  
空は薄紅色に変わり、足元に広がる雲海が、その光をぼんやりと反射していた。  

「すごい…。」  
棺は息をのむ。  

壮大な光景。  
現実では、もう二度と見られないはずの風景。  
それを、紅崎はここに刻んでいた。  

「まさしく最高の一枚だな。」  
黄泉が口元を緩める。  

その時……視界の端で、人影が動いた。  

紅崎登。  
彼は静かにカメラを構え、じっと息を殺していた。  
記憶の中の彼は、現実と同じように、その瞬間を待っていた。  

雲が流れ、太陽が傾く。  
光が完璧な角度で射し込んだ、その一瞬

「今だ。」  

紅崎の指がゆっくりとシャッターを切る。  

カシャッ

その音が、静寂の中に響く。  

棺はその瞬間を、ただ黙って見つめていた。  
黄泉は腕を組みながら、微かに息を吐いた。  

「……これで、あいつは納得できるかな？」  
棺は紅崎の背中を見ながら呟く。  

黄泉は飄々と笑いながら答えた。  
「まぁ、未練ってのは、こうやって形になるもんだ。」  

紅崎は静かにカメラを下げ、目を細めた。  
風が優しく彼の髪を揺らす。  

「瑶子に……見せたかった。」  

彼はぽつりと呟く。  

棺はその言葉を受け止めるように、目を閉じる。  
彼がこの瞬間を生きた証。  
その一枚は、まだ誰の手にも渡っていない。  

しかし、それがもうすぐ届くことになる。  

黄泉は軽く肩をすくめながら、棺を見た。  
「行くか？」  

棺は少し息を整え、ゆっくりと歩き出した。  

世界が滲み、色がほどける。  
雲海の向こうへ、光が溶けていった。