黄泉ノ彼岸葬儀店

EP.12バタフライ・エフェクトButterfly Effect

5

ドーーーーンっ！

衝撃。  

黒い渦が全てを飲み込んだ。  
足元から世界が崩落し、黄泉は底のない闇へと堕ち続ける。  

重力が狂う。  
身体が浮く。  
いや、落ちている。
どこへ向かうのかも分からないまま。  

「棺ィィィ――！」  

声が虚空に溶ける。  
響かない。  

次の瞬間。
硬い床に叩きつけられた。

「んぐっ……！」  

肺が一気に圧迫される。  
衝撃で視界が滲む。  

だが、それ以上に、空間そのものが歪んでいた。

サミシイサミシイサミシイサミシイ

オカーサンオトーサン

ねぇ、なんで僕を捨てたの？  

どこからか、声が響く。  
いや、空間そのものが訴えているのか。  

黄泉の身体に、黒い靄が絡みついていた。  

蜘蛛の巣。

絡み取られた四肢。  
生き物のように脈打ち、締めつける闇。  

動けない。

「……クソっ……！」  

黄泉は歯を食いしばる。  

その時、影が現れる。  

子供の姿をした棺。  

小さな身体。  
だが、その瞳は淀んだガラス玉のように、何も映していなかった。  

静かに、ただ黄泉を見下ろしている。  

黄泉は低く息を吐き、囁くように問いかけた。  

「お前の……未練は？」  

囚われたまま。  
蜘蛛の巣に絡め取られながら。  

しかし、棺は何も言わない。  

ただ、無表情で黄泉を見つめ続けていた。