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小さな嵐の吹くところ
8.小姑希望の王女は仁王立ちで待つ
しおりを挟む「わたくしを放って歩き回るなんて、いい度胸ね? あなた、わたくしの世話係なんでしょう?」
商工会の会談を終え、王家所有の山荘に戻ってくると、仁王立ちでマリアンナが待ち構えていた。
「あら、ごめんなさい? これでも第一王女なので、公務があるの。明日も明後日も予定がビッシリよ」
マリアンナはシスティアーナに言ったのだろうが、ユーフェミアも世話役を担当している。
ただ、小間使いや侍女ではないので、付き従ってあれこれ世話を焼く必要はない。
なので、ここは敢えてユーフェミアが謝った。
その方が角が立たないのと、一方的な恋敵からシスティアーナを庇う意味もあるだろう。
「ユーフェミア殿下は仕方ないわ。王女ですものね。でも、そこの薄ピンクは違うでしょう?」
マリアンナは、一応ユーフェミアには柔らかい対応をするが、標的はシスティアーナである。
ユーフェミアは、マリアンナから見て従弟妹の腹違いの姉であり、この国の婦人団体や商工会の支援など政務にも意欲的に参加している王女である。
対してマリアンナは、使節団についてくるものの公務もおざなり、いずれ王家のために誰かに嫁いで行く身だからと政務には深くは関わってきていない、身分ばかりの王女だ。
ユーフェミアのことは苦手意識があった。
しかも、お気に入りのアレクサンドルとよく似ており、更には自分よりも美人である。
強くは出られなかった。
「シスは特別よ。それに、この土地は王家直轄地で、外交上とても重要な港町。ここを発展させた立役者の縁者で顔も利くの。今回の公務には重要人物だわ」
「事実、彼女がいるだけで、町長や商工会議員達の機嫌もよかったし話もスムーズにいったからね」
従弟であるデュバルディオも、血縁者の自分よりもシスティアーナの味方なのがまた気に入らない。
「ディオ、ミア、晩餐まで間がないよ、支度をしておいで。潮風に髪や肌も傷んでしまうよ」
アレクサンドルが間に入り、ふたりとシスティアーナを連れ去る。
アレクサンドルが視線だけでマリアンナを見ておけと指示すると、カルルは心得たとばかりに得意の、滑るように褒める口調でマリアンナを宥め始めた。
「さ、王女はカルルに任せていったん部屋に戻ろう」
「さすがはカルル。こういう時こそ、いつもの何倍も役に立つのね」
「職務上、目上の貴人を上手くあしらうのは慣れてるだろうからね。僕も見習わなきゃならないかな」
「デュー兄さまは、あんな風になっちゃだめ」
カルルが苦手なユーフェミアは、今にも口笛を吹きそうにカルルを振り返ってみているデュバルディオに不満を漏らす。
「なんだか、ああ言うときのカルルって口が上手い詐欺師か女誑しみたいよ」
「外交官って、詐欺師とはいかないまでも、そういう他人の求める言葉を巧みに操って、気持ちよく情報を引き出したり、こちらに有利な条件を承諾させたりするものなんだよ」
「⋯⋯お、お兄さまも?」
ショックを隠せないユーフェミア。口元を両手で押さえ、震える仕草を見せる。
「まあ、多少は。まだカルルほど上手くないけどね。相手の望むものを見極めて話を有利に持っていっての、情報収集とか外交契約を締結したり? 母上(クリスティーナ妃)も上手だよ。エメルディア妃と違って上辺だけだけどね」
カルルの姉だけあってエメルディア妃も滞在中の諸国の貴族や大使の扱いが上手く、気持ちよく喋らせて各国の情報を引き出していたりする。
「そうなのね」
(ただのお父さま大好き人間じゃないのね)
ユーフェミアはクリスティーナ妃の認識を改めた。
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