婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?

ピコっぴ

文字の大きさ
173 / 263
小さな嵐はやがて⋯⋯

20.紹介

しおりを挟む


「ずいぶんと親しくされてましたのね?」

 王子達の去った後を少し見送って、スコーンにでも手を伸ばそうとした時だった。

 背後から、苛立ちを感じる声がする。勿論、マリアンナである。少し距離を空けているとは言え、隣のテーブルなのだ。
 途中からか全部かは判らないが見ていたのだろう、口許を扇で隠して眉を顰め、やや反り加減に見下ろしていた。

「ええ。幼少からのお付き合いですから、他の方々よりかはそれなりに」

 祖父が出仕する日数の大半は、システィアーナも連れられて来ていた。
 最初は、うさぎのぬいぐるみを抱いていたが、王城で遭う子供達の誰もが、人形やおもちゃを手にしていなかった。
 それに気づいてからは、祖父に贈られた装飾の刻印が綺麗な児童書を手にして来た。『太陽のきらきら王子さまと月のつやつやお姫さま』である。
 中の挿絵を見なければ普通の本なので、王子さまとお姫さまは ~ めでたしめでたしで締め括られる幼児向けお伽噺とぎばなしのような物語だとは気づかれなかった。

 どこへ行くにも持ち歩き、たまに暇を持て余すと、王城で預けられる子供達のための子守ナニー家庭教師ガヴァネスに読み聞かせをねだったりもした。
 そこにユーフェミアが加わり、やがて集められた貴族女児の中から更にアナファリテなど数名が共に学ぶようになると、お気に入りの王子さまの本は、自室の本棚に収めておかれるようになった。

 学友に選ばれた令嬢の殆どが、王家の名に恥じぬ厳しめの淑女教育や手習い、教養の授業について行けなくなり、婚約者も得て王城を離れ、今では、最後まで残った友人数人も、たまのお茶会でしか会えなくなってしまったが。
 当時も今も、一般職の文官や出仕貴族の誰と比べても、システィアーナが王城で王子王女らと過ごす時間は長いだろう。

 だが、それがなんだというのだろうか。
 マリアンナの世話役の一人として選出され、王女達の公務にも付き従っていたのは、今までも見てきただろうに、敢えて聞き直すことだろうか?

「そちらの方々は、初めて見る顔ね? 紹介していただいても?」
「ええ勿論ですわ。こちらはサラディナヴィオ公爵家のユーヴェルフィオ様。シーファークでも紹介しました、こちらフレキシヴァルト殿下の護衛官エルネスト様の兄君ですわ」
「目元にご兄弟らしい類似点が見られますわね。リングバルド王国王太子が息女マリアンナですわ」
「サラディナヴィオ公爵家嫡男ユーヴェルフィオ・J・ジャスティンニールセントルフィオです。お見知り置きを」

 あまり、お見知り置きにならない方がいいよ? エルネストが視線だけで兄に語りかけるが、通じているのかいないのか、ユーヴェは柔和な笑顔でマリアンナに会釈した。

 次いでファヴィアンを紹介する。

「エルネスタヴィオ公爵家のファヴィアン・メイスーフ・コンスタンティノス。アレクサンドル王太子殿下の執務室主任をされていらっしゃいます」

 今は、オルギュストの醜聞に出仕回数を最低限に抑えているため、王宮で見たことはなかったのだろう。

「コンスタンティノス! 王族ですの?」
「⋯⋯祖父が王弟の一人なので。今となっては名ばかりですよ」

 白っぽくても手入れがよく白髪には見えない金髪をまっすぐに肩甲骨まで伸ばして垂らし、同色の糸で刺した刺繍が見事な乳白色のジュストコールに白いクラヴァットと、全体的に淡い色合いのファヴィアンは、オルギュストよりも凛とした、整った王家傍流らしい顔立ちで、怜悧さを湛えた榛色ヘーゼルの双眸は、チラともマリアンナを映さない。

 が、そんな事はどうでもいいのか、マリアンナは、デュバルディオやトーマストルよりよほど『王子』然とした高貴な佇まいに見惚れていた。





しおりを挟む
感想 164

あなたにおすすめの小説

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?

榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」 “偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。 地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。 終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。 そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。 けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。 「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」 全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。 すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく―― これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

処理中です...