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誰の手を取ればいいの
25.二度寝
しおりを挟むその寝顔はシスティアーナにとって眼福ではあったが、少し寝苦しそうだった。
ソファの肘掛けを枕にするのでは高すぎるのだろう、首の辺りも苦しそうだ。
システィアーナは、アレクサンドルの額に貼り付いた髪をそっと直接触れないように払い、スカートの隠しに持っていた手巾で寝汗を拭う。
「この間よりは幾分マシですけれど、やはり顔色はあまり良くありませんわね」
「このところ、夜眠れずに残務整理をなさり、昼間の空き時間にこうして仮眠をとられる昼夜逆転の生活をされています。王太子宮にもお戻りにならず、執務室か奥宮の自室で書類仕事詰めのようです」
やはり、執務中は固い態度のファヴィアン。
「元々色白でいらっしゃるけれど、それにしても顔色がよくないわ」
王太子というものは、そんなに激務なのか。それとも、眠れなくなるような心配事でもあるのか。
フレックやディオほど公務が重ならないので、よくは知らないが、忙しいことは間違いないだろう。
まだ二十歳で、王位を継いでいないのに今からこうでは、即位したらどうなるのか。
ソファの横に座り込み、アレクサンドルの僅かに力の入った眉間や、震える瞼をジッと見守る。
ファヴィアンも側に立ち、静かに待機する。
「そう言えば、先日淹れて頂いた安眠のハーブティーを真似て淹れてみたのですが、配合が違うのか、味が今ひとつで」
「まあ、そうですの? それくらいならいつでも淹れて差し上げますわ」
「そのお言葉、努々忘れぬよう」
言質はとったと言わんばかりの笑みで、ファヴィアンが確認する。
そんなふたりの話し声に、アレクサンドルが小さく唸った。
慌てて顔を見合わせ、口元に指を当てて静かにするよう示し合わせる。
が、結局は目覚めてしまった。
「あれ? ティア? ⋯⋯こないだの夢かな?」
「夢ではありませんわ。お疲れでしたら、甘い物はいかがですか? わたくし、今日はマフィンを焼いてきましたの。お茶も淹れますわ」
まだ寝ぼけているのか、アレクサンドルの手に重ねられたシスティアーナの手を軽く握り込み、ふわっと微笑みかける。
(この笑顔。いっそエルナリア妃やミアよりもお綺麗で、幼い頃の太陽の笑顔と呼ばれていたのを思い出す温かくて懐かしい微笑み)
「ありがとう、いただこうかな」
菓子を食べると言うのに、大切なものを隠すように両手で握り込んだシスティアーナの手に頰を寄せて、目を閉じる。
寝息のような息遣い。
寝直したようだ。
「二度寝?」
「お疲れなのでしょう」
その後一刻ほどアレクサンドルは目覚めなかった。
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一日=48刻(一刻は30分)=12時(一時は2時間)
中国の一日=100刻よりかは判りやすい?
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