悪役令嬢だと気づいたので、破滅エンドの回避に入りたいと思います!

飛鳥井 真理

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第二章 シークレットステージ

第86話 天然な彼女

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「私はこの指輪にする。ヴィヴィアン嬢、君はこちらのネックレスにしたらどうだろうか?」

「まぁ、ありがとうございます。わたくしの分も選んでくださったんですね」

 彼のさりげない気遣いで、すっきりと問題が解決したヴィヴィアンは、嬉しそうに顔をほころばせた。

「べ、別にっ。他に気に入ったのがあるならそれでもいいんですがっ」

「いえ、これがいいですわ。可愛いらしいデザインでとても気に入りましたものっ」

「そ、そうですか?」

 面倒くさくなってもう何でも良かったんだろうなと悟ったものの、自分が選んだものを受け入れてくれたことは嬉しい。

「ではヴィヴィアン嬢、こちらを……」

 緩みそうになる気持ちを押さえ、さりげなく手渡そうとしたところで……。

「つけてくださいませ」

「なっ!?」

 彼の婚約者は天然さを発揮し、さらりと爆弾発言をしてくれた。

 誓ってヴィヴィアンに他意はない。

 ただ自分ではネックレスを上手くつける自信がなくて、誰かに頼みたかっただけなのだ。

「だってほら、リリアンヌ様もフレデリック様に着けていただいていますわ」

「ですが……」

 確かに二人は普段から仲がいいけれど、自分達はまだ、彼らのようにお互いの気持ちを確かめ合ったことはない。

 表面上は軽く眉をひそめただけに見えるが、 華やかな容姿の婚約者にこてんと小首をかしげて可愛らしく頼まれたシリルの心の中は、ドキマキして大変なことになっていたのだが……。

 そんな思春期真っ只中の少年の繊細な胸の内など、前世が喪女だったヴィヴィアンに分かるはずもない。

 彼女の思考は単純である。今、この馬車の中にはヴィヴィアンたち四人しか乗っておらず、その中の二人は取り込み中で手伝ってはもらえないだろう。

 頼めるのは彼しかいない。

 だから依頼しただけなのだが、断られそうな雰囲気は野生の勘のようなもので感じとったらしく、少し焦ったようにいった。


「それにわたくし、一人で留め具が嵌められないと思いますの。お願いできません、シリル様?」

「……まぁ、そう言うことなら。仕方ないですよねっ。いいでしょう」

 自分を納得させるようにそう言ったシリルは、邪念を振り払って頷いた。

 そして耳を赤く染めながらも、細身のネックレスをヴィヴィアンにつけてくれたのだった。

「……出来ました」

「ありがとうございます。助かりましたわ、シリル様」

「うん。まぁ、お役に立ててよかったです」

 なんでもないことのように言いながらも、熱くなった指先をそっと握りしめたのだった。




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