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十三話
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しばらくの沈黙の後に、彗は自分が何を言ってしまったのかようやく理解した。
慌ててジオから距離を取ろうと思ったが、腕の中では陽心が眠っていたし後ろからジオがきつく彗を抱き締めてきたから体を動かせない。
彗の心臓は激しく暴れ回り、耳が火傷しそうなくらいに熱くなる。
彗が何も言えずにジオの腕の中で黙りこくっていると、耳元で息ができなくなるほど切ない声が聞こえた。
「彗、今の言葉......本当か......?」
違うと、間違いだったと言わないといけない。
ジオを彗の人生に巻き込んではいけない。
頭の中ではそう思っているのにジオの嬉しさと不安が綯い交ぜになった、絞り出すような声を聞いてしまったら、自分の気持ちに蓋をして嘘をついてまでジオを裏切ることなど到底できなかった。
「......本当だ」
彗の言葉を聞くと、ジオはぜんまいが切れたかのように体の動きを止めた。
腕の力も弱くなり身動きが取れるようになった彗は、その隙を見計らって陽心を隣の座敷に敷かれた布団に寝かせる。
穏やかに眠る陽心の頭を一度だけ優しく撫でてから、彗はジオの元へと戻った。
囲炉裏の側で呆然としたまま動きを止めているジオの隣に腰を下ろし、投げ出されている大きな力強い手に自分の弱々しい手を重ねる。
手と手が触れ合うと、ようやく体の硬直を解いたジオの深く紅い瞳と目があった。
その瞳は喜びと感激と、彗にはよくわからない何か深い感情で覆われていた。
長い間、お互いの瞳を見つめあった後で、どちらからともなく口付けを交わした。
今までジオと交わしたものの中で一番純粋で、透明な口付けだった。
触れ合うだけの戯れにも満たない未熟な口付けを終える。
その途端に寂しさが体中を走り抜けた。
一度ジオへの気持ちを認めてしまえば、それはもう彗の手に負えるものではなくなってしまう。
愛して愛されて、心を預けて預かって、お互いを包み合うように一緒に生きていきたいと思った。
もうこんな気持ちになることなんて二度とないと思っていたのに、また彗は人を愛してしまった。
誰かにこんな気持ちを抱いてしまうことが、とても恐ろしい。けれど湧き上がる感情は止められない。
「好き......ジオが好きだ......」
抑え切れなかった感情が、両方の瞳から熱い涙となって両頬を伝う。
言葉にしてしまうと、今までこの気持ちを抑えていたことが信じられないほど、ジオへの気持ちが大きな川の流れのように彗を飲み込んでいく。
彗の感情でジオを困らせたくないのに、勝手に溢れる涙はいう事を聞いてくれなかった。
ただ感情の赴くままに涙を落としていると、背中にジオの力強い腕が回り、抱き竦められる。
温かな体温に包み込まれると、強ばっていた身体から穏やかに力が抜けていった。
「彗」
「ん……」
「愛してる」
自分から、その言葉を返すのはまだ彗には荷が重かった。だから、精一杯の思いを込めて彗は小さく頭を縦に振った。
「俺と一緒に生きてくれるか……?」
ジオの声は震えている。
今までの求婚への拒絶が、ジオに怯えという心の傷を負わせている事は明らかだった。
彗と陽心をとても大切にしてくれている男を、自分は大切に出来ていないことが申し訳なかった。
いつも彗は、後悔ばかりだ。
でももう後悔はしたくない。今度こそ大切だと思った人の手を取って生きていきたい。
同じ轍を踏むのはもう嫌だった。
「ジオと……ジオと一緒に生きたい……」
ジオの大きな背中に手を回し、抱き締め合う形になりながら彗は声を絞り出した。
「結婚、してくれるか?」
ジオの声にはもう不安はなかった。
春光のように、彗を包み込む柔らかで穏やかな音色だった。
それに導かれるように、彗は小さく呟いた。
「……はい」
慌ててジオから距離を取ろうと思ったが、腕の中では陽心が眠っていたし後ろからジオがきつく彗を抱き締めてきたから体を動かせない。
彗の心臓は激しく暴れ回り、耳が火傷しそうなくらいに熱くなる。
彗が何も言えずにジオの腕の中で黙りこくっていると、耳元で息ができなくなるほど切ない声が聞こえた。
「彗、今の言葉......本当か......?」
違うと、間違いだったと言わないといけない。
ジオを彗の人生に巻き込んではいけない。
頭の中ではそう思っているのにジオの嬉しさと不安が綯い交ぜになった、絞り出すような声を聞いてしまったら、自分の気持ちに蓋をして嘘をついてまでジオを裏切ることなど到底できなかった。
「......本当だ」
彗の言葉を聞くと、ジオはぜんまいが切れたかのように体の動きを止めた。
腕の力も弱くなり身動きが取れるようになった彗は、その隙を見計らって陽心を隣の座敷に敷かれた布団に寝かせる。
穏やかに眠る陽心の頭を一度だけ優しく撫でてから、彗はジオの元へと戻った。
囲炉裏の側で呆然としたまま動きを止めているジオの隣に腰を下ろし、投げ出されている大きな力強い手に自分の弱々しい手を重ねる。
手と手が触れ合うと、ようやく体の硬直を解いたジオの深く紅い瞳と目があった。
その瞳は喜びと感激と、彗にはよくわからない何か深い感情で覆われていた。
長い間、お互いの瞳を見つめあった後で、どちらからともなく口付けを交わした。
今までジオと交わしたものの中で一番純粋で、透明な口付けだった。
触れ合うだけの戯れにも満たない未熟な口付けを終える。
その途端に寂しさが体中を走り抜けた。
一度ジオへの気持ちを認めてしまえば、それはもう彗の手に負えるものではなくなってしまう。
愛して愛されて、心を預けて預かって、お互いを包み合うように一緒に生きていきたいと思った。
もうこんな気持ちになることなんて二度とないと思っていたのに、また彗は人を愛してしまった。
誰かにこんな気持ちを抱いてしまうことが、とても恐ろしい。けれど湧き上がる感情は止められない。
「好き......ジオが好きだ......」
抑え切れなかった感情が、両方の瞳から熱い涙となって両頬を伝う。
言葉にしてしまうと、今までこの気持ちを抑えていたことが信じられないほど、ジオへの気持ちが大きな川の流れのように彗を飲み込んでいく。
彗の感情でジオを困らせたくないのに、勝手に溢れる涙はいう事を聞いてくれなかった。
ただ感情の赴くままに涙を落としていると、背中にジオの力強い腕が回り、抱き竦められる。
温かな体温に包み込まれると、強ばっていた身体から穏やかに力が抜けていった。
「彗」
「ん……」
「愛してる」
自分から、その言葉を返すのはまだ彗には荷が重かった。だから、精一杯の思いを込めて彗は小さく頭を縦に振った。
「俺と一緒に生きてくれるか……?」
ジオの声は震えている。
今までの求婚への拒絶が、ジオに怯えという心の傷を負わせている事は明らかだった。
彗と陽心をとても大切にしてくれている男を、自分は大切に出来ていないことが申し訳なかった。
いつも彗は、後悔ばかりだ。
でももう後悔はしたくない。今度こそ大切だと思った人の手を取って生きていきたい。
同じ轍を踏むのはもう嫌だった。
「ジオと……ジオと一緒に生きたい……」
ジオの大きな背中に手を回し、抱き締め合う形になりながら彗は声を絞り出した。
「結婚、してくれるか?」
ジオの声にはもう不安はなかった。
春光のように、彗を包み込む柔らかで穏やかな音色だった。
それに導かれるように、彗は小さく呟いた。
「……はい」
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