【悪役転生 レイズの過去をしる。】

くりょ

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レイズの未来を変える。

三人で行く決断

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食堂に広がっていた穏やかな昼の空気は、
次の瞬間に破り捨てられた。

バンッ!!

「――し、失礼いたしますっ!!」

扉を荒々しく押し開け、ひとりの使用人が駆け込んだ。
息は上がり、顔は青ざめ、手は震えている。

レイズはスプーンを置き、イザベルは肩を跳ねさせた。
ヴィルは椅子に腰をかけたまま、まっすぐに使用人を見る。

「……どうした?」

使用人は喉を鳴らし、声を振り絞った。

「ま、魔族が……! ルーヴェ村を襲っているとの報せです!!」

空気が、一瞬で凍りつく。

レイズの表情は鋭く。
イザベルの手は震え、胸に手を当てる。
ヴィルの眼光は一瞬で戦士のものへ戻った。

「魔族……」
ヴィルは低く呟いた。「妙ですね。最近は大人しいはずですが」

その言葉の裏には、経験からくる不穏な予感があった。

だが、判断は遅れない。

ヴィルはすっと立ち上がり、決然と告げた。

「私が行く」

その声は静かだが、部屋を揺らすほどの重みを持つ。

イザベルの表情が変わる。

「おじいさま!? 一人で行くなんて……!」

しかしヴィルは首を振る。

「魔族は強い。普通の兵では足手まといになる。
だが、一人なら被害は抑えられる」

その言葉は経験者だからこその結論。
だが、あまりにも危険だった。

レイズは拳を握りしめた。

(魔族が相手なら……俺だって戦える)

立ち上がり、低く言う。

「俺も行く」

イザベルは悲鳴のような声を上げた。

「レイズくん!? 魔族よ!? 本当に危ないのよ!」

ヴィルはイザベルへ視線を向け、静かに告げる。

「イザベル……お前は残れ」

「え……」

イザベルが固まる。

「正直に言おう。お前では魔族は止められない。
私とレイズの足を引っ張る可能性がある」

ズキン――
胸を斬られたような痛み。

イザベルの目に涙が滲んだ。

「そんなこと……分かってるわよ……でも……!」

だが、彼女がそれ以上言う前にレイズが口を開いた。

「イザベルも来る」

「……え?」

ヴィルも目を細めた。

「レイズ。何を言っているのです。イザベルは――」

「分かってる。戦わせるつもりはない」

レイズは落ち着いた声で言った。

「けど、イザベルはここで待つより……俺たちと行ったほうが安心する。
そして俺も……そのほうがいい」

イザベルの目が揺れた。

レイズはわざと軽く笑ってみせる。

「大丈夫だよ。イザベルは俺が守る。
ヴィルが守れないなら……俺が守る。
三人で動いたほうが、互いに安全だ」

その言葉は、幼い頃の臆病なレイズの声ではない。

ヴィルは息を呑んだ。

短い沈黙。

そして——

「……分かりました」

ヴィルはわずかに口元を緩め、深くうなずいた。

「三人で行きます。
レイズ。お前がイザベルを守れ。」

イザベルは自分の胸に手を当て、震える声で呟く。

「……ありがとう……」

レイズは少し照れたように視線を外す。

「礼なんていらないさ。おまえを置いていくほうが落ち着かないしな」

イザベルの胸が熱くなる。

ヴィルは背筋を伸ばし、堂々と言い放った。

「三人で向かう。
魔族の真意を見極め、状況を正す。
——それがアルバードの務めだ」

イザベルは涙を拭き、まっすぐに顔を上げた。

「……はい!」

レイズは木刀の柄を強く握る。

(魔族相手でも、やってやる)

アルバード家の三人は、
初めて“共に”危機へと向かう。

これは、
三人の関係が
“家族”から“戦友”へと変わる最初の一歩だった。

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