黒い空

希京

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独り寝

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一日中広い屋敷を歩き回って正直足が痛い。
自分の部屋に戻って静は力尽きた。

だが夫の帰りも待たず横になるのははばかられる。

「みな休んでいいぞ。夜遅くまでご苦労」
まわりに侍る実家から連れてきた女房たちに声をかけると、与えられた局に下がっていった。

明るい色の袿にそれぞれ個性のある顔。これが普通だ。

「律も休め。今日は疲れただろう」

「交渉が長引けば殿のお帰りはいつになるかわかりません。昨夜もほぼ寝ておりませんし今夜はゆっくりお休みなさいませ」

自分が寝ていないという事は律も一睡もしていないだろう。
忠実な侍女にまた徹夜を強いるのは厳しいと思い、助言通り横になることにした。

なんとなく明日には帰ってくると思っていたが、律の言い方では数日かかる可能性もある。

「そうだな」

律の介添で袿を脱ぎ、夜着に着替えた。
「近くに空いている局があればそこに床を用意して。殿がもしお帰りになったらすぐ起こせ」

正室として建物を一棟与えられたので、誰も使っていない局はたくさんある。

「かしこまりました」

特に意を挟むことなく律が部屋を出ていく。

静はその姿をぼんやり見送って座り込んだ。

婚礼の夜、夫とすごした寝室を自分ひとり使うのは気が引ける。
従者たちの手前冷静な態度を崩さなかったが、あちこちに気を使って緊張がとけないのも疲労感を増しているような気がした。

初夜とも呼べない夜をすごして生娘のままの自分。

そんな目で見られることがうっとおしい。

はっきり言われたわけではないが、この家の空気感がそう伝えてくる。

自分に何も言わずここに送り込んだ両親。

客人扱いの嫁ぎ先。

どこにも居場所がない。

早く後継者を生まなければ。
だが夫は今いない。

「姫さま」
律が戻ってきた時には、いつもの無表情な顔を作って案内された局まで歩く。
御簾の向こうに白くてふわりとした贅沢な布団が敷かれていた。

静は御簾をはねのけるように中に入って横になる。

静かに一礼して部屋を後にする律の気配を背中に感じながら目を閉じる。
実家では見たことのない、ふわっとした布団の心地よさに、疲労に負けた体はすぐ睡眠に入った。


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