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俺から見た君は
浮気
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「これってどういう状態かな?」
「あの‥海‥これはな、えっと‥」
教室に入ると、キッと睨みつけてくる海に詰め寄られた。
背後から俺の腕を掴むスナがぼーっと俺たちを観察している。
まるで浮気現場だ。いや、ほんとにそう。昨日まで距離をおきたいと言っていた奴が、今日にその当事者と登校してくるだもんな‥。
誰だってそうなる‥。昨日連絡を後回しにした自分を恨んだ。
夏樹の視線が痛い。
登校中、何度言っても離してくれなかった腕。振り払えばいいのに振り払えない自分に心底呆れる。
「スナくん、それって恋愛感情?」
夏樹がふいに放った言葉にどきりと心臓が跳ねる。
「違う。」
「っ‥」
は、即答かよ。
グサリと胸に棘みたいなのが刺さったような感覚がして、俺は途端に俯く。
どうせいつもの八谷の代わり。今回もだって、分かっていたつもりだったけれど、こうして直で言われるとやっぱりきっついな‥。
性懲りも無く傷ついて、また期待していた馬鹿な自分がいたことに気づく。どうしようもなく恥ずかしくて泣きたくなった。
「‥なら、この状況がおかしいって分かるでしょ。」
夏樹が珍しく真剣な声でそう言うものだから、教室にいる奴らが遠目で息を呑むのが分かった。ごめんなお前ら‥最近空気悪りぃよな‥。
「‥」
それでも、知らぬ顔のスナに夏樹の眉がぴくりと動く。
「ッ、‥あぁ、そっか。知らなかったらごめんね?俺、風太の恋人なんだ!」
「‥、」
ニコニコととびっきりの笑顔でそう告げる夏樹。今度はスナの眉がぴくりと上がる。
「ふん、行こう風太。」
スナの反応に満足したのか、頬を膨らませて俺に手を差し伸べる海。
「‥うん‥。スナ、離して。」
「‥」
俺の表情を見てか、海が助け舟を出してくれる。だから言ったでしょ?と言わんばかりの顔だ。
海からは同情の色が見えて、今すぐにでもその優しさに触れたくなった。なかなか離さないスナに痺れを切らして、俺は夏樹の手を取るため、スナの腕を振り払おうとついに力を入れる。
刹那、それは起こった。
「わっ、ちょっ!?スナ!?どこ行くんだよ!?」
「え、ちょっと!?」
俺よりも強い力で引かれる腕。
俺を連れたまま涼しい顔で夏樹の横を通り過ぎ、そのままズンズンと廊下を足早に歩いて行くスナ。俺は驚いて目を丸くする。されるがままどこかへと連れて行かれて、俺はハッとすぐに口を開いた。
「す、スナ!?まて、待てって!なぁ!」
制止の声も届かずに何度か階段を登って、たどり着いたのは屋上。
足を止めて振り返るスナに、俺はどきりと肩を揺らす。
「お前、なんなの?!っ、うお!?なに!?」
抗議しようと口を開いた途端、俺の腰を強く抱き寄せて、肩口にグリグリと頭を擦り付けてくるスナ。まるで飼い主を取られたペットか、親を独り占めしたい子どものようだ。
「スナっ‥おい‥なんなんだよもう‥」
そのまま突き離せばいい。先程のやり取りを思い出してまた泣きそうになる。勘違いしそうなこれもどうせ恋愛感情からくるものじゃないんだから。八谷が来たら‥俺なんて‥
また俺は人と比べてばっかの嫌な奴に逆戻りだ‥。
目の前で揺れるサラサラの銀髪に触れる。
昨日は、ずっとスナといられて正直俺、幸せだったんだと思う。
また現実に戻ってきたことがこんなにも苦しいなんて分かっていたはずなのに。感情や想いはどうしてもうまくコントロールできない。
もし、八谷とスナがうまくいったら?もうこの髪にも、触れられないんだろうな‥。
最近見る夢のせいか、スナとの思い出がたくさん溢れてくる。切なくて堪らない。胸が締め付けられて消えて無くなってしまいそうだ。
あぁ‥もう少しだけ‥
俺の腰に回る腕の力が強くなる。俺はゆっくりと、スナ背中に腕を回して、スナの首元に顔を埋めた。
スナの匂い。冷たい体温が心地いい。
嫌だ。俺、ずっと一緒にいたいよスナ。
好きだよ、スナ。大好きーー。
「、‥スナ‥体調は大丈夫か‥?しんどくないか?」
「‥うん」
「そっか。無理はすんなよ?少し休んでから教室に戻ろうか?」
「‥」
「わかった。」
肩口でこくりと頷くスナに返事をする。
それからはお互いにただ無言で。
俺はこの想いの終わりを想像して、スナに見えない様に、そっと涙を拭った。
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