【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

花村 ネズリ

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俺から見た君は

首筋の跡

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「ん‥あれ‥俺」

妙な夢を見た。なんだかやけに感覚がリアルで、俺は首を傾げる。

夢‥だよな?

見慣れない天井。だけど、知っている場所。
俺はぐるりと部屋を見渡す。

「ここ‥っ、まさか、ゴホッゲホッ!?」

スナの家‥?なんで!?
俺は乾いた喉に苦しくなって、咳き込む。
時計を確認すると金曜日の午後13時を示していて、俺はポカンと口を開いた。

何が起こっているのだろうか。

熱樹くんと会ってそれで‥体調が悪くなって‥あぁ‥夏樹に連絡していないっ、あの後どうなったんだろう‥。夏樹から何か連絡が来ていないだろうか?俺のスマホ‥どこだ?

朦朧とする頭で、俺は立ち上がって荷物を探そうとする。が、ふらりとベッドに逆戻りしてしまう。

フラフラする‥熱がまだあるのか‥?

頭が酷く痛い。寒気がして、俺は毛布を手繰り寄せる。

喉が焼けつくように渇いていたので、サイドテーブルに置いてあった天然水と書かれた新品のペットボトルを申し訳ないけど拝借した。

「っ、げほっげほっ‥喉痛え‥」

水を飲み込むたび、喉の違和感に眉を顰める。
ふと、コップを置いた拍子に、そばに散らかったものが目に入った。

これ‥熱冷ましの薬‥体温計に冷えピタ。まさか、看病してくれたのか?スナが?なんで‥

ちくりと痛む首筋に触れる。なんだ?虫に刺されたのか?

俺は壁にかけてある鏡に視線を移す。

「なに、これ‥」

首筋から鎖骨にかけて無数に広がる赤い


『っ、分かんねえっ‥俺は‥ほんとは空っぽで‥何もない、から‥』

『なんで‥俺の側にいてくれねえの‥?』


泣きそうなスナの声が、顔が、鮮明に頭に残っている。

あれは、どこからが夢だ?ーー。


首筋に感じた生暖かい感覚。指先の間に滑るようにスナの手が吸い付いて、首筋に痛みを感じるたびに繋いだ手の力が強くなった。甘い痛みと冷たい体温を思い出して、俺は顔が赤くなる。
いや、そんなはずない‥。都合のいい妄想だ‥。

でも‥
夢の中で珍しく弱音を吐いては壊れそうなスナの姿に胸が苦しくなって、今すぐ顔を見て抱きしめてやりたい衝動に駆られる。

空っぽ‥あれはどういう意味だったんだろうーー。

「っ、馬鹿‥だから夢だってば‥ゲホッ」

もう考えるな。妄想だ妄想。スナは八谷が好きなんだ。俺なんかにあんなこと話すわけもないし、この跡だってきっと熱の症状だろう。
熱が出る時は変な夢を見るものだ。

そうだ、これ無断欠席だよな。学校に連絡しとかないと‥。母さんのところに電話行ってないといいけど‥。

親とは仲が悪いわけじゃない。父さんは事故で俺が生まれる前に亡くなったらしい。だから俺は写真の中の父さんしか知らない。

母さんは救急の病院で働いている。夜勤だから、家にほとんどいないし俺の生活と母さんの帰宅時間が被ることはない。

今頃母さんは家で爆睡‥俺が帰って学校に行っているものと思ってるだろうな‥。母さんは睡眠が幸せだっていつもぼやいてるぐらいだ。寝るのを少しでも邪魔されると後が怖い‥地味に嫌がらせしてくる‥前はお土産だと珍しく渡されたケーキか激辛だった。

刹那、ピコンとメッセージアプリの通知音が頭上で鳴る。
俺のスマホがベッドの脇に置いてあって、急いで手に取った。


「っ、まかさ母さんじゃ‥っ、」

”早川、出席がやばいからすまないが先に行く。必要そうな物はベッドの横のテーブルに置いてある。

”起きたか?

”冷蔵庫に粥を入れてるからレンジで温めて食べれそうなら食って薬を飲め。

”大丈夫か?体調が悪化したらすぐに連絡しろ。

”心配だから起きたら返事をくれ

”早川、怒ってるのか?一人にしてごめん。

俺はポカンと口を開けた。なんだ、誰だこれ?
トークアプリを開くと先頭にスナの名前があって、何件も送られてきていたメッセージに俺は戸惑う。

「これ、ほんとに‥スナ‥だよな‥?」

まるで過保護な恋人みたいだ‥。
俺は唖然とトーク画面を見つめて、落ち着くためにいったんスナのメッセージ画面を閉じる。

俺の欲求が詰まった夢か‥?いや‥頬をつねっても痛い‥現実だ。

‥だったらなんなんだ。どういう状態なんだよいったい‥。カフェで気を失って、気づいたらスナの家で、変な夢を見て‥起きたら首筋に大量の跡‥。


俺は急いで夏樹のトーク画面を開く。

”大丈夫だった?

”心配だから、連絡して‥

たったの2行だけど、送られてきた時間が違う。最後のは夜中の3時だ‥。俺の体調を心配して、一緒に帰ろうと待っていてくれた夏樹を思い出す。
あぁ、また俺は夏樹に酷いことを‥。

『夏樹、ごめん。今目が覚めた。』

ピコンと通知音がしてすぐ夏樹から返信が来た。

”よかった!連絡がなくて心配したんだから!風太今どこにいるの!?

「どこって‥これは言ってもいいのか‥?」

俺は返信しようとして手を止める。
夏樹に事の経緯を聞こうと思ったけれど、この状況は夏樹からしたら良いものではないだろう。
家にいるって‥嘘を‥ついたほうがいいのだろうか。その方が夏樹もこれ以上心配しないで済むんじゃ‥

”もしかして、スナの家じゃないよね‥?

ぎくりと肩が震えて、隠し通せないなとため息を吐く。

『ごめん、よく分からないんだけど、そうみたいだ。カフェから記憶が曖昧で、俺、何があったんだ?それと、夏樹、約束守れなくて本当にごめんな。』

”そっか‥俺は大丈夫だよ。風太が無事でよかった。ちょっと授業だから待っててね

数分夏樹からの返信が途絶えて、俺は時刻を確認する。
もう授業が始まってるのか‥

俺はスマホを閉じて、大きく息を吐いた。

怒ってもいいのに、本当に優しすぎるよ夏樹‥。

考えすぎたからか、なんだか急激に眠気が襲って来て、俺はベッドに横になる。

だめだ‥帰らないといけないのに‥、
でも少しだけ‥

俺は目を瞑る。




「なに、これ‥どういうこと?」


次に目が覚めた時、俺は自分の浅はかさを恨んだ。


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