【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

花村 ネズリ

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俺から見たお前

待ってて

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俺は口を開く。
返事をしよう。早く、早川に伝えないと。

ふと、早川の腕の力が強くなって、俺は出そうとした声を抑えつけた。

まて、
なんて言うつもりだったんだ?

無意識に唇を噛む。あぁ、こんな時でさえ、

言葉が、出てこないーー。



″代わり

不意にハチの言葉が頭をよぎる。

早川は、俺が早川のことをと思っていた。もしかしたら早川も、ハチと同じように感じるかもしれない。

うまく言葉が見つからないのに、自分の気持ちですら分からないのに、
早川にちゃんと伝えられるのだろうか?
ハチや他に対するように演じるか?だけどーー

このままじゃダメな気がした。

俺は本ばかりで脳の無い人間だ。
それでも、学ぶことはどんなことよりも得意だから。

俺はまたゆっくりと口を開ける。
きっと不器用で不甲斐ないはずだ。
だけど、早川には本当の俺を知ってもらいたいと思った。俺の言葉でいい‥ひとつずつちゃんと心の内に抱いた言葉を。


「わかった。修正するから時間をくれ。」

「‥?‥へ?


し、修正?」

ガバッと肩を掴む。硬直する早川がポカンと口を開けた。

やはり変だったかと、少し笑う。


「勉強し直す。もっと本を読む。ドラマを観て学び直すから。早川が、苦しまずに俺の側にいられるようにする。
だから、泣くな。笑ってこうやって側にいろ。あと、夏樹と別れろ。」

ひとつひとつ、心を込めて早川に伝える。
喉が渇いて、声が掠れた。

最後のは‥言うつもりじゃなかったのに‥。
勝手に口から漏れた言葉に、居た堪れなくて、カッコ悪いのを誤魔化すために額通しをこつりと合わせた。

早川の目の中に俺がいて、また胸が高鳴る。


「す、スナ‥近い‥、なに、ど、どういうこと‥?」

困惑する早川。その目元は赤い。
熱でしんどいからか?それとも誰かに?
急に出て行った早川と、俺の家にいたハチ。

釘合わせしたのだろうかと、俺は顔が曇る。

「熱が高え‥目が腫れてる‥ずっと泣いてたのか?八谷に何か言われた?」

ゴシゴシと制服の袖で早川の顔を拭いていく。

「ゔ‥触んな‥ふぐ!や、やめろよ‥自分で拭くからッ」

こんな時、普通の人ならもっとうまくやるだろうに。
配慮がなかった。守れなかった。俺のせいで早川が泣いたと思うと、自分に腹が立つ。

「早川は俺のしたいことをしろと言ったけれど、昨日言ったとおり、俺には″何もない。空っぽなんだ。」

「ふぐ‥え‥?」

ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
心の中をそのまま話す感覚は、慣れなくて、
不安で胸が押しつぶされそうだ。

それでも一生懸命に俺の話を聞いてくれる早川に、俺は勇気を出す。

「俺にはやりたい事とか、好きな事がよく分からない。でも、″永遠に早川が俺の側にいる″って当たり前のようにずっと考えてた。それは、たぶん俺の望む事に入るよな。」

目を見開いて、困惑する早川。
その目が期待で揺れているのがわかる。

が、一瞬でまた切なげな表情に戻った。

「は、八谷のことはどうするんだよっ、お前告白したんだろ‥まだ、好きなんだろッ」

やはりふたりは釘合わせてたか。
俺は慎重に言葉を選ぶ。嘘はつくな。本当のことを。

「あぁ、八谷のことは恋愛感情として好きだ。だから一番大事に扱う。一番に尊重する。」

そう祖父から教えられたから。
俺にとってそれは唯一の教えであり、救いだった。

「っ、」

「それが正しいことなんだって‥思ってたんだけどな‥って、おい、話を最後まで聞け泣き虫っ。」

早川が、話し終える前にその目に涙を溜めるから、俺は慌ててまた続きを話し始める。

「最近どうも恋愛と親友との区別がつかねえ。なにか見誤ってる気がして。教材を間違えたんだろうか?俺は正しく恋してるように見えるか?」

はやとちりめ。俺は急いで早口で喋ったものだから、何故が疑問系で終えてしまって、またかっこがつかない自分に恥ずかしくなった。

ポカンとアホ面をする早川の頬を両手で伸ばしてやる。この泣き虫。泣くな、笑え。


「なんだか、俺‥熱で幻覚見てる?変だよ‥スナお前‥。俺、宇宙人と話してるみたいだ‥」

やっぱりまた変だったんだな‥。俺は顔を片手で押さえる。

お前が急かすからだ‥。

「誰が地球外生命体だ。はぁ、お前が言ったんだろ?どんな俺でも愛してくれるって」

「あ、あいっ、」

昨日の早川を思い出して、俺は冗談まじりにそう言った。

不安げな顔から一変して、真っ赤になる早川。仕返しだ。

「あれ?違った‥?むずいんだよな‥人の言葉ってさ‥まじで‥心の声とか翻訳できたらいいなって思うよ。あぁ、でも、

涙止まったなーー。」

早川の頬に触れて、俺は微笑んだ。
涙も悪くは無いけれど、お前の辛そうな顔は嫌だ。

お前は、いつも通りが一番綺麗だと俺は思うからーー。


「泣かせるようなことして悪かった。この胸の違和感も全部‥分かるように俺努力するから。少しだけ待っていてほしい。もう早川を泣かせるようなことはしない。約束する。」

「い、意味‥わかんねぇ‥よ。もう、理解できなくて、泣いてるわ馬鹿‥」

文句を漏らす早川だが、先ほどとは違い、声に力が入ったのが分かって俺は安堵する。

「うん、だよな。ごめん。でも、この言葉は俺の本心だから。受け取ってくれたら‥嬉しい」

目元をなぞる指。早川が目を細めた。

早川の返答を待つ。
少しして、子どもみたいに震える自分の手に気づいた。バレたくなくて俺は頬から手を離そうとする。

けど、途端、早川が頬にある俺の手をギュッと握りしめた。

目を見開いた。

そっとその身を俺に預ける早川。

「うん‥」

一言、そう告げた言葉に俺の胸は熱くなる。

大切な‥宝物みたいだーー。俺は早川の体を壊れないように優しく包み込んだ。




少しすると規則正しい寝息が聞こえてきて、俺はデジャブだなと笑う。

頬にかかった髪を掬って、それにキスを落とす。


早川。俺、頑張るから‥だから、その時までどうか少しだけ


待っててーー。







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