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騎士の決意
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いつものように魔法使いの塔で見張りの仕事をしていたエドガーの所に、なんだか慌てた様子のケヴィンがやってきた。
「エドガー、ちょっとこれを見てくれよ」
「何だよ、いま仕事中なんだ」
「いいから!」
ケヴィンは少し怒ったように言い、エドガーに一枚の紙を差し出した。
「何だ? これ」
首を傾げながらエドガーは紙に目を落とす。それはある本の一ページを切り取ったものだ。何かの小説のようだが、読んでもさっぱり意味が分からない。
「この文章の中身はどうでもいいんだ。よく見ろ」
ケヴィンはある文字を差した。エドガーは目を凝らしてそれをじっと見る。よく見ると、文字を何かで傷をつけて丸く囲ったような跡がある。
何かで囲われた文字はいくつもあった。
「いいか? この文字を抜き出して並べ替えたんだ。そしたらある言葉が出てきた」
ケヴィンはおもむろに地面にしゃがみ、薄く積もった雪の上に指で一文字ずつ書き始めた。
やがて現れるその一文を見たエドガーは、驚きで目が大きく見開かれた。
──エドガー だいすき──
「これ……まさか」
「そうだ。これはルナが書いたものに違いない。今朝、ルナと同じフロアにいた別の闇魔法使いがこれを見せて来たんだ。図書室で借りた本に全然違うページが挟まってると思い、良く見てみたら暗号のようなものがあったと。解読したらお前の名前が出てきたから、お前に渡してくれと言われたんだ」
エドガーは呆然としたまま、紙をじっと見ていた。
「いいか? エドガー。これはルナからお前宛のラブレターだ。恐らく後で渡すつもりで、本の間に挟んでおいたんだろう。ルナが連れて行かれた後、部屋にあった本はそのまま図書室に返されたから、ずっと気づかれなかったんだ」
「ルナ……」
エドガーの目が赤くなる。
「紙もペンもないから、手紙を書く為にこうしたんだろうな……おいエドガー、俺は前言を撤回するよ。ルナはお前に本気だったんだ」
──ルナはエドガーとキスをしてから、ずっと浮かれていた。初めて恋を知ったルナは、常にエドガーのことばかり考えていた。彼に手紙を出したいと思ったルナだが、囚われの身である彼女に、ペンや紙など与えられるわけもない。そこでルナは本の文字に印をつけることで、エドガーへのメッセージを作った。簡単なメッセージしか作れなかったが、これを後でエドガーに渡そうと考え、うきうきしながら別の本に挟んで隠したのだ──
エドガーは決心したように顔を上げ、ケヴィンを見た。
「ケヴィン、俺は少し休みをもらおうと思う」
「休み?」
「リヴァルス殿下の護衛をする前、俺に良くしてくれた人がいた。その人なら力になってくれるかもしれないから、訪ねようと思う」
「誰だ?」
ケヴィンは首を傾げた。
「リヴァルス殿下の弟、アシュトン様だよ。元々は彼の推薦で、俺はリヴァルス殿下の護衛をすることになったんだ。アンジェリーヌ様のことがあった後、アシュトン様の計らいで俺は騎士団を追い出されず、第三騎士団に送られるだけで済んだんだ」
「なるほど、アシュトン殿下か……確かにあの方はリヴァルス殿下よりも話の分かる方らしいが。だが彼の所へ行ってどうする?」
「ルナとなんとか会える方法がないか、相談したい」
ケヴィンはうーん、と腕組みをする。
「そう上手くいくかねえ……」
「だが俺が頼れるのはあの方しかいない。望みはないかもしれないがとにかく、行ってみるよ」
エドガーの意思は固かった。ケヴィンはため息をつくと、エドガーを励ますように肩を叩いた。
「頑張れ。王女様と無事に会えるといいな」
「ありがとう、ケヴィン。お前のおかげで俺は覚悟ができたよ」
エドガーはルナの手紙を愛おしそうに見つめた後、折りたたんで胸元のポケットに入れた。
「エドガー、ちょっとこれを見てくれよ」
「何だよ、いま仕事中なんだ」
「いいから!」
ケヴィンは少し怒ったように言い、エドガーに一枚の紙を差し出した。
「何だ? これ」
首を傾げながらエドガーは紙に目を落とす。それはある本の一ページを切り取ったものだ。何かの小説のようだが、読んでもさっぱり意味が分からない。
「この文章の中身はどうでもいいんだ。よく見ろ」
ケヴィンはある文字を差した。エドガーは目を凝らしてそれをじっと見る。よく見ると、文字を何かで傷をつけて丸く囲ったような跡がある。
何かで囲われた文字はいくつもあった。
「いいか? この文字を抜き出して並べ替えたんだ。そしたらある言葉が出てきた」
ケヴィンはおもむろに地面にしゃがみ、薄く積もった雪の上に指で一文字ずつ書き始めた。
やがて現れるその一文を見たエドガーは、驚きで目が大きく見開かれた。
──エドガー だいすき──
「これ……まさか」
「そうだ。これはルナが書いたものに違いない。今朝、ルナと同じフロアにいた別の闇魔法使いがこれを見せて来たんだ。図書室で借りた本に全然違うページが挟まってると思い、良く見てみたら暗号のようなものがあったと。解読したらお前の名前が出てきたから、お前に渡してくれと言われたんだ」
エドガーは呆然としたまま、紙をじっと見ていた。
「いいか? エドガー。これはルナからお前宛のラブレターだ。恐らく後で渡すつもりで、本の間に挟んでおいたんだろう。ルナが連れて行かれた後、部屋にあった本はそのまま図書室に返されたから、ずっと気づかれなかったんだ」
「ルナ……」
エドガーの目が赤くなる。
「紙もペンもないから、手紙を書く為にこうしたんだろうな……おいエドガー、俺は前言を撤回するよ。ルナはお前に本気だったんだ」
──ルナはエドガーとキスをしてから、ずっと浮かれていた。初めて恋を知ったルナは、常にエドガーのことばかり考えていた。彼に手紙を出したいと思ったルナだが、囚われの身である彼女に、ペンや紙など与えられるわけもない。そこでルナは本の文字に印をつけることで、エドガーへのメッセージを作った。簡単なメッセージしか作れなかったが、これを後でエドガーに渡そうと考え、うきうきしながら別の本に挟んで隠したのだ──
エドガーは決心したように顔を上げ、ケヴィンを見た。
「ケヴィン、俺は少し休みをもらおうと思う」
「休み?」
「リヴァルス殿下の護衛をする前、俺に良くしてくれた人がいた。その人なら力になってくれるかもしれないから、訪ねようと思う」
「誰だ?」
ケヴィンは首を傾げた。
「リヴァルス殿下の弟、アシュトン様だよ。元々は彼の推薦で、俺はリヴァルス殿下の護衛をすることになったんだ。アンジェリーヌ様のことがあった後、アシュトン様の計らいで俺は騎士団を追い出されず、第三騎士団に送られるだけで済んだんだ」
「なるほど、アシュトン殿下か……確かにあの方はリヴァルス殿下よりも話の分かる方らしいが。だが彼の所へ行ってどうする?」
「ルナとなんとか会える方法がないか、相談したい」
ケヴィンはうーん、と腕組みをする。
「そう上手くいくかねえ……」
「だが俺が頼れるのはあの方しかいない。望みはないかもしれないがとにかく、行ってみるよ」
エドガーの意思は固かった。ケヴィンはため息をつくと、エドガーを励ますように肩を叩いた。
「頑張れ。王女様と無事に会えるといいな」
「ありがとう、ケヴィン。お前のおかげで俺は覚悟ができたよ」
エドガーはルナの手紙を愛おしそうに見つめた後、折りたたんで胸元のポケットに入れた。
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