選択的ぼっちの俺たちは丁度いい距離を模索中!

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
13 / 33

13話 見た目

しおりを挟む
「……これで、いいのか?」

 大和との待ち合わせ場所は漫画の原画展をする会場の最寄駅。
 地下鉄の改札を出てすぐの柱にもたれ掛かりながら、俺は自分の服を見下ろした。
 何の変哲もない白いTシャツに黒いハーフパンツ。銀のネックレスとピアスはいつも通り。

 朝から、いや。この予定が決まった時から永遠に服装に迷っていた。
 大和と初めて出掛けるどころか、友だちと遊ぶなんてことが初体験だ。
 子供のころに公園で遊んだことくらいはあるけど、あんなの回数には入らないだろう。
 普段出かけるときは全方面に牙を剥くような派手な格好をするんだけど、今日はあまり目立ちたくない。

(金髪のせいでどんな格好でも浮く気がするけど)

 スプレーで一日だけ黒く染め直そうかとも思ったが、大和が俺に気がつかない可能性があると思って諦めた。せめて、と黒いキャップを被ることにした。
 漫画の原画展にくるのは、大和みたいな大人しそうなやつが多いんだろうというイメージが偏見だったと俺が気がつくのはもう少し後だ。

(そろそろか)

 ざわざわ音がしてきたかと思うと、改札から人が沸くように出てくる。俺は大和を探した。背が高いからすぐに見つかるはずだと、少し上の方を見てキョロキョロした。
 すると、見覚えのある整った顔がこちらを見る。

「蓮君、待たせてごめん」

 大和は人の流れに逆らいながら俺の方に辿り着いた。

「もっと早く来るつもりだったのに、服に迷ってたらギリギリになっちゃった」

 紺色の襟付きシャツと青いジーンズを着ているイケメンを見上げて、俺はポカンと口を開けてしまう。きっと、すごく間抜けな顔だ。

「……メガネは……」
「蓮君の隣にいるのに少しでもマシかと思ってコンタクトにしたんだ」
「ほあ」

 間抜けな顔どころか今世紀最大の間抜けな声が出た。
 なんだこいつ。
 俺が眼鏡を外すとツラが良いって言ったから?
 それとも髪を染める時はコンタクトにしろって言ったから?
 決定打は分からないけど、どうやら俺が原因らしい。
 言葉の力ってすごい。少し怖い。

「あの、どうだろう」

 戸惑っていると、柱に手をついた大和が覆い被さるように覗き込んでくる。近い。パーソナルスペースが来い。
 いつもは良いけど今はダメだ。心臓がやかましい。でも、なんか言わないと。俺が言ったからわざわざ慣れないコンタクトにして外に出できてくれたんだから。

「いいと、思う」
「良かった」

 レンズに隔たれていない目が嬉しそうに細まって、柔らかい微笑みが浮かんだ。
 優しい声に胸が跳ねる。
 どうしてこんなにドキドキするんだろう。
 どうしてこんなに、嬉しいんだろう。

(大和が、俺と出かけるの楽しみにしてたのが伝わってきたからかな)

 スマホで日付を見るたびに、あと何日と頭に浮かんでいた俺と同じ。
 少し出かけるだけでどんだけ楽しみにしてんだと自嘲してたけど、大和も同じくらいワクワクしてくれてたんだ。

 俺は目の前にある黒髪に恐る恐る触れてみる。

「前髪、上げた方がお前の顔がよく見えていいと思う」

 今度は大和が固まってしまう番だった。
 しまった。髪に触られるのが嫌だったのかもしれない。
 俺は慌てて手を引っ込めて、行き場のない手をポケットに突っ込んだ。

 大和は目線をウロウロと泳がせた後、前髪を後ろに掻き上げて見せてくる。
 雑誌のモデルみたいなポーズを駅の改札前でしてどうするんだこいつ。

「固定の仕方が分からない……」
「固定」
「離すと落ちてくる」

 手を開くと、言葉通りパラパラと髪が額に戻っていく。ワックスとかつけてないんだから当たり前だ。

「お前もふざけたりするんだな」

 肩をすくめる俺に、大和はまた仄かに笑った。イタズラが見つかった子供みたいな顔だ。

「今度、やり方教えて」

 どうやら触ったのが嫌だったわけじゃないらしい。ホッとした俺は、ショルダーポーチの中から携帯用のスプレーを取り出す。

「触って大丈夫か? 今」

 手のひらサイズの小さい筒を、大和は物珍しそうに見つめて頷いた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募するお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...