クソ水晶(神)に尻を守れと心配された件

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目の前に広がる賑やかな街並み。
様々な種族が行き交う大通り。
食欲をそそる匂いを漂わせる露天や色とりどりの食物を並べる商店。
客引きの声や楽しげに語らう人々の声。
そして、通りの奥に聳え立つ王城。


朝日が昇る頃村を出発した騎士団+俺は、昼過ぎに王都へ到着した。
途中で何度か魔物と遭遇し、騎士団は任務を遂行していく。
そうして到着した王都は、周囲を高い壁に囲まれていた。魔物の襲撃を防ぐためか、その他の何かからの進行を防ぐためか。
クソ水晶の話を鵜呑みにするなら、前者だろう。
定期的に魔物討伐任務を遂行しているという話を、道中で話すようになった団員達から聞いた。
どの国も、魔物対策に頭を悩ませているのだと。

………どの国も、か。




騎士団は王城に隣接する騎士団本部へと到着した。
騎士団は第一から第八まであり、その半数がこの本部に併設する宿舎で生活している。
残り半分は通いだったり、遠方任務中だったりでいないらしい。
その宿舎の中を、ヒースに案内されて歩く。ギルは今回の討伐任務の報告をするとかでこの場にはいない。
案内されるのが本部ではなく宿舎なのは、ヒース個人の客人として招かれているから、らしい。


「個人的な客人として招いた方が、後々動きやすくなりますから。シンさんへの待遇も悪くなる事はないですしね」


何やら色々思惑があるようだが、細かい事は分からないし悪い状況にならないようなので大人しく従う。

案内された部屋は、応接間だった。
宿舎の中にある為簡素な作りではあるが、案内される途中で覗き見た他の部屋よりは随分豪華だ。室内中央のソファに座るよう促されベルトに差した刀を外して座る。
暫くしてギルともう1人見知らぬ男が入ってきた。
ギルとヒースと同じ格好をしているところを見ると、同じ第三騎士団の者だろう。
ヒースが俺の隣へ、ギルは俺の真向かい、その隣に見知らぬ男が座る。


「話を始める前に改めて紹介を。私はヒースレン・ウィリル。スティラ国第三騎士団の副団長をしています。団長のギルフォードはご存知ですね?団長の隣に座るのが、もう1人の副団長、レイド・アイザックです」


見知らぬ男がもう1人の副団長だと知ると、改めて男を見た。
藍色の髪と瞳。切れ長で鋭い目付きをしたその男は、見た目の印象からか冷たい感じを受ける。名前を紹介されニコニコするギルとは正反対で、会釈をしただけだった。


「ギル…団長には名乗ったが、改めて。シンイチロウだ。長くて呼びにくいらしいからシンでいい」


「では早速。身元確認をしなければならないので幾つか質問をさせて頂きます」


互いに名乗りを上げると、早速話が進む。


「出身は?」
「ご両親の名前は?」
「何故あの森に?」
「その武器は?」
「あの身体能力は?」
「何故鑑定が使える?」
「本当に種類を特定した解毒魔法だったか?」
「回復魔法を何故あんなに連続で使用できる?」


ヒースから投げかけられる質問に、俺は殆ど答えることが出来なかった。
分からない、なんとなく、としか言いようがなかったのだ。
唯一答えられたのは刀の事だけで、改めて俺は怪しい男認定されたらしく。


「……シンさん、このままでは貴方を投獄しなくてはなりません。素性の知れない貴方を野放しには出来ないのです」


困ったように言葉を紡ぐヒース。言いたい事ももっともで、さて、どうしたもんかと腕を組んで考える。いっそ、全て話してしまおうか。少なくとも、ギルとヒースは信用できるだろう。
もう1人の…レイドという男は分からないが。
…………よし。


「………信じてもらえるか分からないが…」


ギルとヒースが連れてきたなら信用出来るのではないか、と勝手に結論付けて前置きをする。


神の間違いで死んだこと。
お詫びで転生した(生き返った)こと。
諸々の能力をもらったこと。


転生ではなく、生き返った事にした。生前の事も何もかも覚えていないと嘘をつく。
ここが何処か分からず、常識的な事も分からないと告げる。嘘に、本当のことを混ぜると真実味は増す。
泉でもそうだった。ヒースは騙せて無かったみたいだが…。


「両親の名前は覚えてない。あの森にいたのは、気付いたらあの場所にいたからだ。身体能力が高いのは、この刀のお陰だな。鑑定が使えるのも神にもらった能力だからだ。解毒魔法は、創造魔法で作った。回復魔法を連続で使えるのは、魔力無限の能力を持っているからだ。もう一つ言わせてもらうなら、何か企んでたら団長達を助けてない。更に魔物をけしかけるか、奇襲する」


あらかた真実を話したため、先ほど質問された内容を答えていくと同時に無実も訴えてみる。驚いた様子のギルや、何かを考え込む様子のヒース。レイドは無表情で俺をじっと見つめたままだ。
暫く三者三様の様子だったが、ふいにヒースがギルへ視線を向けて頷く。


「シン、騎士団に入るつもりはないか?」


ギルの突然の提案に首を傾げて何故と問う。


「今の話を裏付ける為に、シンを鑑定してもらうつもりだ。だが鑑定は希少な能力故に、使える者を無闇矢鱈と連れ出すわけにもいかない。王城にいるにはいるんだが……私達は出来るだけシンの存在を隠したい。その根回しに時間がいる。」


「何故、俺の存在を隠す必要が?」


「魔物に脅かされる各国が、シンの戦闘力や能力を知ったらその力を狙ってくるかもしれない。騎士団に所属していれば、そう簡単に他国は手を出せない。つまりは身の安全をはかるためだ。入団するには試験が必要だが入団してしまえば仲間だ。私達騎士団は仲間を必ず守る」


成る程と納得する。これからの事を何も決めていない身からすれば有り難い話だ。ひとまず匿われる形で騎士団に所属し、ゆっくりとこれからを考えるのも悪くない気がした。
俺はその提案に乗ることにした。が、気がかりが…。
それは騎士団の入団試験。詳しく聞けば、実技試験と筆記試験があるらしい。しかも騎士養成学校とやらを卒業していない身分のため、大分合格基準が厳しいらしい。
実技はともかく、筆記試験には不安しかない。なんせこの世界の常識や文化、歴史やその他諸々の事が全く分からないのだ。
その事を正直に話すと、やはり驚かれた。


「成る程…覚えていないなら仕方ないですね。では試験まで私達が交代でお教えしましょう。読み書きは出来ますか?」


話した内容に納得したのか、ヒースが頷く。


「村に滞在したときに文字は見たから多分読めはする。書けるかは分からん」


あくまで覚えていない事を全面にアピールしつつ答えていく。
勉強に関するあれこれや、今後の宿舎での生活のあれこれを話し合い、あらかた決まったところで解散になった。
ヒースは色々準備があるからと何処かへ行き、ギルは今回の討伐任務の事後処理が残っているからと団長室に向かった。
残された俺は……未だに一言も声を聞かない相手と部屋に残される。


「………………案内する…」


漸く発せられた声に一瞬何のことか分からず呆けるが、レイドが立ち上がり扉へ向かうのを見て部屋に案内されるのだと悟る。
そう言えばさっきヒースに言われてたな…。

俺とレイドは、終始無言で部屋へと向かったのだった。
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