840 / 856
◇ライブ準備
「そこまでの、人」*優月
しおりを挟む「なんかほんとなら見慣れちゃうくらい近くに居るのにさ。すぐ、見つめちゃうし。やっぱり、玲央って、強烈だと思う」
「強烈、ねぇ……」
「なんかこないだも聞いたけど。自分では見惚れないの? 自分で鏡見た時、作り、完璧だなーとか、見ちゃわない?」
「――――……」
しばらく真顔で見つめられた後、笑いだした玲央が、オレとは反対の方を向いて、肩を震わせてて。しばらくしてから、オレを見てまだ笑う。
「無いから――嫌だろ、オレが完璧だなーて自分を見てたら」
「ないの?? オレがその顔だったら、絶対見つめる。バランスとか、形とか」
うーん、と考えていると、玲央が苦笑する。
「それは、優月が絵、描くからだと思うけどな」
「そう?」
「前も言ったよな、オレは、自分より、優月を見てたいって」
「……ふふ」
玲央が笑いながら言ってくれた言葉に、そういえば、言ってくれた気がする。……オレは永遠に玲央を見ていたいけどなぁ……。
「なんか夏休みに色んなとこ回るの、楽しみだね。玲央の歌とか、カッコいいとこ、今知らない人達も、知るんだーて思うと……」
思うと。
……思うと。とっても嬉しい。けれど。
「優月? ……どした?」
止まったオレに気づいて、玲央が覗き込んでくる。
コンビニの手前、二人で足を止める。
「……なんか今オレ、いっぱい想像したんだけど、言ってもいい?」
「何を? いいよ」
面白そうな顔をしてる玲央を見つめながら。
「……ライブでまわったら玲央がSNSとかですごい有名になっちゃって、めちゃくちゃ注目されて、役者とかモデルとかスカウト来ちゃって、めちゃくちゃ人気者になって、忙しくて会えなくなっちゃって、テレビで玲央を見る日々、とかになっちゃったら、どうしよう……?? いやもちろん、応援はするのだけど、でもどうしよう、って思っちゃった」
一瞬で想像したことを全部一気に言う間、玲央はずっと黙っていたのだけれど、オレが言い終えた途端、また笑い出した。
「っはは。おもしろ……」
……オレは結構真剣にあるかもしれないと思ってるのだけれど。なんだかすごく楽しそうに笑っている。
「まず、優月はオレんちに引っ越すだろ? 会えないなんてないし」
「……忙しいから帰ってこれないとか……」
「ない。オレが無理。優月に会えないとか」
「…………」
「つか、オレ、役者とか無理だし」
「――――そう?」
そうかなあ。なんでも出来ると思うんだけど。
「そもそもやりたくねーし」
「……そっか」
「優月のオレの評価って高すぎるよな。稔とかにも言われただろ?」
まあ言われたけど……。
でも、高すぎるってことはないような。
「つか、優月はオレのことがそんくらい好きってことで受け取るから嬉しいけど。そこまでじゃないって」
玲央はキラキラした笑顔でそんなふうに言って、オレの背中をぽんぽんと叩く。中入ろ、と促されて、コンビニの自動ドアを玲央が開けて中に入った瞬間。
めっちゃくちゃキラキラの笑顔で迎えてくれたおばちゃんたちを見て、絶対「そこまで」の人だよなぁ、と一人納得しながらも。
おばちゃんたちの予想以上の歓迎に、二人には分からないだろうけど、ちょっぴりだけ引いてるみたいな玲央の笑顔が、可愛く見えて、きゅんとする。
さっきここに来た時はオレ一人だったから、今は余計に、「きたー!」みたいなノリなんだろうなあ。過去一番にハイテンションのおばちゃんたちにも笑ってしまうけど。
戸惑ってる玲央、可愛いなぁ……ふふ。
いつも余裕だから。
こんなのも、とっても可愛い。
ちょっと一歩引いたところでそんなことを思いながら笑ってると、ちら、と振り返った玲央に視線を流される。助けろよ、みたいな顔をされて、ますますクスクス笑ってしまった。
(2025.3.22)
自分で書いててなんですが、
おばちゃんたちになりたい笑
993
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の第二王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる