「呪いじゃなくて」

星井 悠里

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第2話「いたくても」

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 開けた瞬間。


 海翔が目に映ると、胸が音を立てる。
 カッコいいな、と思う。ああ、本当にこいつが好きだな、って感じる。

 こんなに好きなやつ、他には居ない。そう思い知ると、また切なくなるけど。

「結、いま平気?」
「ん、平気だよ」

 そんな気持ちは全く表には出さず、オレは普通を装って返事をする。
 海翔は、中には入ったけど、靴を脱ごうとせずに玄関で立ち尽くしている。

「どした?」
「――また別れてきた」

「え。あ、そうなのか? ……そっか」

 いつもは別れても振られても、多少は落ち込むけど、オレんちで楽しく酒を飲んで忘れていく感じなんだけど。
 珍しく、本気で落ち込んでるのかな。

 今回は初めてこいつから、申し込んで付き合ったって言ってたし。
 そりゃ、いつもよりは落ち込むか……。

 って落ち込むこいつを見て、オレの胸の中は、めちゃくちゃザワザワしてるけど。
 そもそも、海翔から初めて申し込んだっていう時点で、オレの心はまあ結構ズタズタに引き裂かれた気分で。
 ……てことは、きっともう、今回は別れずに、うまくいくんだろうなって、思ったから。

 だから……海翔から離れたほうがいいっていうのも、思い始めたんだけど。
 でも。

「分かった。いいよ、明日休みだし。いくらでも付き合うよ」

 なるべく明るく、そう言った。

 いざ本人を前にすると、全然違う自分の対応。

 ……だって好きだし。

 離れるとか、実際のとこ、無理なんじゃないかと思ってしまう。
 海翔が離れて行ってくれるんでもないと……オレからは、無理かも。

 ほんと、一番キラキラ青春してるはずのこの10年間。
 心の中に居たのは、海翔だけだった。

 この世で一番好きなんだもん。
 仕方ないよなぁもう……。

 オレが慰められるなら、慰めてやりたい。元気になってほしい。


「上がりなよ。酒とかつまみ、用意するから」

 言って、先に部屋に戻りかけたオレは、腕を掴まれて、そのまま引かれた。


 次に気づいた時には。
 海翔の腕の中に、いた。

 ―― え ?

 胸が弾む。やば。
 ドキドキしてんのバレそう……。


「何……ど、したの」
「――」
「そんなに好きだったの? ……だよな。お前から告ったの、初めてだったもんな。落ち込むなって。お前なら良い奴、すぐまた見つかるから」

 そんな風に続けて言いながら、
 海翔の背中を、ポンポンと叩いて、慰める。

 ……胸が痛い。

 なんの因果で、オレは、
 好きな奴が、こんな風に他の好きな奴を想って落ち込んでるのを
 慰めるポジションにいるんだろう。

 今回はちょっと落ち込み方がすごいけど、いままでもずっと恋愛相談、受けてさ。一緒に悩んだりさ……。
 オレ、前世で何か、そんな悪いことしたのかなあ。

 でも、それでも……こいつのこんな姿は見ていたくない。
 楽しそうに笑ってる、こいつが、好きだから。

 オレがどんなに痛くても、どうでもいい。
 海翔が痛いのは、嫌だ。

「話、聞くから。あ、お前が好きなつまみ作ってやる。何がいい? 材料あるかな。
 言ってくれたら下のスーパーで買ってくるから。シャワー浴びて待ってなよ」

「――ゆで卵にねぎのってるやつ」

 その言葉にぷ、と笑ってしまう。
 半熟卵に、ごま油とねぎのたれかけたやつか。好きだって言ってたっけ。

「あとは?」
「……チーズ入った厚焼きたまご……」
「うんうん。てか、たまごばっか」

 はは、と笑ってしまう。
 ――オレの作るもの。好きって思ってくれるの。
 もう、それだけでいいなぁ、とか思ってしまいながら、ぽんぽん、と背中を叩く。



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