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傭兵たちのいない森の中
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旅人の女性たちに聞いてみた話だと、多数の国が互いの領土を奪い合う乱世に『稀人』と呼ばれる者が集い世界の平定を行ったらしい。己の傭兵団を結集し、時には協力して好きな国に属して国を大きくしていった。それは、大きな時代の幕開けだった。20年もの長いようで短い時間で、国は一つに纏められたらしい。そのトップの傭兵団の名は九頭竜の牙と呼ばれていたが、その傭兵団の長である者はイオリであったらしい。ふむ、私の名前はどうやら出てこなかったらしく私は無名の影の長らしかった。
『稀人』ふくむ傭兵たちは姿を眩まし何処かへ消えてしまったのだという。じゃあ、私の傭兵団は消えたのか? 私だけこの世界に残されたのだろうか。せっかくまとまった国も傭兵団という抑止力がなくなれば、また乱世に戻るだけではないだろうか? とにかく私はかつての私達のホームへ行けばなにかしらわかるかもしれないと、探すことにした。私が選んだ国はエタナ国。その近くの森に拠点を構えた筈だ。
傭兵団は確かに消えたかもしれない。だけど、私のソルジャーは……けしていなくなってなんかいないと思う。あれだけ過保護で、私によく仕えてくれた彼らがいなくなるとは、とてもじゃないが思えなかった。私は外の世界を知らない矮小な存在でしかないのだから。
どれだけの時間を一緒に過ごしたか、楽しいあの時間は確かに私の胸の中にあるのだ。それが、そんな日常が壊れてしまったなんて思いたくない。人は私のことを廃人だと掲示板で盛り上がっていたけれど、ソルジャーといる時間が私のかけがえのない、大切な時間である。リアルな世界には私の居場所なんてなかった。
腫れ物をあつかうようなあの、かわいそうにという目も、すべてが私を拒絶していた。ソルジャーといる世界こそが私の世界の全てだったのだから。
「っ……稀人たちも、なぜ消えてしまったのでしょう。国は一つになってもモンスターの脅威は今もあるのに」
旅人の女性が、腕に包帯を巻いて痛みに顔をしかめている。私はナーシアに教えてもらって作ったポーションがまだ収納にたくさんあったことを思い出した。どうやら収納は使えるらしく取り出せたので彼女にあげてみた。
「こんな高価な物いいのかい?」
「はい、たくさんありますから。どうぞ」
彼女は嬉しそうにポーションを飲むとみるみる顔色が良くなっていく。大丈夫そうだと、ホッと息を吐く。
「すごい効きめだね。まるで稀人が作ったやつみたいだよ」
彼女はそう褒めてくれた。ナーシアを褒められたようで、なんかくすぐったかったけど私が作ったやつなんだよね。ナーシアのはもっとすごい。でも傷はたちどころに消えたようで、おっかなびっくりに女性は言ってきた。
「これはお金を払わなくちゃね。100ガルドしか払えないけど、ごめんなさいね」
そう言って硬貨を渡してくれた。ちょっと申し訳ないかな。だって、そこらへんの薬草でパパっと作れてしまうから。でも、はじめて自分で稼いだお金だ。大切にしよう。
「ありがとうございます。治って良かったです」
私は仲間たちが、いなくなっていないことを願いながら静かに不安になりながらも眠るのでした。
『稀人』ふくむ傭兵たちは姿を眩まし何処かへ消えてしまったのだという。じゃあ、私の傭兵団は消えたのか? 私だけこの世界に残されたのだろうか。せっかくまとまった国も傭兵団という抑止力がなくなれば、また乱世に戻るだけではないだろうか? とにかく私はかつての私達のホームへ行けばなにかしらわかるかもしれないと、探すことにした。私が選んだ国はエタナ国。その近くの森に拠点を構えた筈だ。
傭兵団は確かに消えたかもしれない。だけど、私のソルジャーは……けしていなくなってなんかいないと思う。あれだけ過保護で、私によく仕えてくれた彼らがいなくなるとは、とてもじゃないが思えなかった。私は外の世界を知らない矮小な存在でしかないのだから。
どれだけの時間を一緒に過ごしたか、楽しいあの時間は確かに私の胸の中にあるのだ。それが、そんな日常が壊れてしまったなんて思いたくない。人は私のことを廃人だと掲示板で盛り上がっていたけれど、ソルジャーといる時間が私のかけがえのない、大切な時間である。リアルな世界には私の居場所なんてなかった。
腫れ物をあつかうようなあの、かわいそうにという目も、すべてが私を拒絶していた。ソルジャーといる世界こそが私の世界の全てだったのだから。
「っ……稀人たちも、なぜ消えてしまったのでしょう。国は一つになってもモンスターの脅威は今もあるのに」
旅人の女性が、腕に包帯を巻いて痛みに顔をしかめている。私はナーシアに教えてもらって作ったポーションがまだ収納にたくさんあったことを思い出した。どうやら収納は使えるらしく取り出せたので彼女にあげてみた。
「こんな高価な物いいのかい?」
「はい、たくさんありますから。どうぞ」
彼女は嬉しそうにポーションを飲むとみるみる顔色が良くなっていく。大丈夫そうだと、ホッと息を吐く。
「すごい効きめだね。まるで稀人が作ったやつみたいだよ」
彼女はそう褒めてくれた。ナーシアを褒められたようで、なんかくすぐったかったけど私が作ったやつなんだよね。ナーシアのはもっとすごい。でも傷はたちどころに消えたようで、おっかなびっくりに女性は言ってきた。
「これはお金を払わなくちゃね。100ガルドしか払えないけど、ごめんなさいね」
そう言って硬貨を渡してくれた。ちょっと申し訳ないかな。だって、そこらへんの薬草でパパっと作れてしまうから。でも、はじめて自分で稼いだお金だ。大切にしよう。
「ありがとうございます。治って良かったです」
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