オーデンスのΩの物語《I》

風鈴

文字の大きさ
26 / 150
《第一部》一途なΩは幼馴染のαに恋をする

クラーブとトーマス(2)

しおりを挟む
 トーマスはグランデール侯爵家に来ていた。
「ようこそ、トーマスさん」
「元気そうだな、クラーブ」
「今日は、プライベートですか?仕事じゃ無さそうですね」
「ある意味プライベート、ある意味仕事だ」
「リュウールの事ですか?先日、ミッシェルの実家のマーテルに行ったと聞きましたが」
「さすが、次期当主は違いますね。自分の家の者を使わずにここまで情報を把握しているなんて、親衛隊はすごいです。来年の近衛騎士入団の何人かは親衛隊出身者が入って来ます。セバスチャン殿下とクラーブの2つの親衛隊が守っているのはあなた方2人じゃない、リュウールとミッシェルにいらない虫が付かないようにしているが本人達には殆ど気づかれていない…」
「それだけ分かっていて、何を俺に聞きたいのですか?」
「あなたが知らない情報を持ってきた」
「どんな」
「リュウールが俺の親父と交わした契約の件」
 クラーブは、ヒクッと眉を動かした。
「契約とは物騒な話だ」
「俺の親父は、支離滅裂な言動をする人物で、オーデンス伯爵家を憎み、ギル・ブロック侯爵を憎み、自分をこよなく憎んでいる人物です。リュウールの事は心から愛しているけど、彼がオーデンス伯爵家だと言う事実を憎んでいるんです。だから、リュウールに学園に通う間はシモンズと言う名で通わせ、その上学園卒業後は政略結婚させると言う契約を結ばせた」
「リュウールはそんな馬鹿げた契約を了承したんですか?」
「はい」
「リュウールは、国王陛下夫妻が後見人だから、勝手に結婚はできない筈だ、話しにならない」
「我が家のリュウールは頭は良いが、世間からちょっと離れたところに身を置きすぎて世間知らずだ。だからこんな馬鹿げた契約を信じていたようだ。そこを突いてくる俺の親父は相当な悪魔の策略家と思う」
「それで、俺に何を聞きたい」
「あなたのオメガ接近禁止令はリュウールが高等部に入るまでだった。あなたのこれからの策略を聞きたいと思ってわざわざ礼を尽くして訪問した。本来なら僕の方に礼を尽くしてもらうものだと思っていますが」
「俺の策略?別段特別はないですよ。高等部の恒例の昼食時間を利用する予定です。学年が2学年違い、バースも違う俺たちには、昼食時間を利用するのが1番良いのです。ただ、リュウールは目立つ。今まで親衛隊に守らせたが、何人かは挫折したやつがいるぐらい魅力的なんです。付き合ってもいないのに噂は数多の如く降って湧いてくる、高慢、ビッチと言われても本人は気にしていない。加えてこの頃は、噂を流している奴や付き合ってるって言った奴を見つけては正論で口撃しているようです。それだけでなく、外に出て遊ぶ為に何人かのβとデートしていて、昼食を食べて話題豊富なやつとは色々な情報交換を行っています。それは把握済みですよね。警護隊が目を光らせているでしょう」
「はい、デートを楽しむというより、世間を知る為に色々と連れて行ってもらっている。特に話して面白く為になりそうな友人達を集めて自分の味方になってもらう感じだと聞いている。高慢だとか、ビッチだとか相変わらずなんですね。だけど、αに論議をふっかけてそれを口撃している事は知らなかった」
「親衛隊曰く、笑いもせずに正論でグイグイ押し続けて、最後には相手のαがシュンとなっていくらしいです。今良く言われているのが『リュウールはΩじゃないあれはαだ』と言うものです」
「まぁ良い、それじゃこれからはお前が主導で進めてくれたら良い」
「勿論です。俺のΩで番です。離さないです。
 ところで、暗部の様子はどうですか?俺の情報ではギルが進めていた農業事業が計画は立派だったが実態がお粗末で農民が集まらないらしいですね。頓挫しそうだとか?農民に悪い噂を流している?」
「あれは、問題がありすぎる、元々、麦や葡萄等の栽培には向かない土地だから農民の中では畜産だと思っていた。しかし畜産じゃない畑を耕すことに疑問がでていた。そんなに農業が儲からないのは農民もわかっているが、計画では儲かって土地はすぐに自分の土地になる夢見たいな謳い文句じゃ相当金に困っている農民しか集まらない。金に困っている農民は働く事が嫌いな奴が多い。だから、俺達はアレの栽培だろうと目星はつけた」
「やっぱりアレの畑を作る計画は結構昔からあった。だけど、ギル・ブロック侯爵家の領地は海の近くで高地じゃないから不向きだと聞いています。誰の領地でやろうとしてたのですか?」
「ガードナー男爵家だ。オーデンス城から北に行くとガードナー男爵家の領地に入る。オーデンス伯爵家の領地の北側で山との間に広がる土地だが、ガードナー男爵家は随分前に当主が亡くなり、息子はその前に亡くなったので親戚筋のフォンテン男爵家が継承権を預かっている。そのフォンテン男爵家も継承前で領地の権利が曖昧になっているのが今回の計画が立った理由だ。しかし、国王陛下がフォンテン男爵家の継承者を指名したので計画が頓挫した」
「フォンテン男爵家の継承者って、ロン・フォンテンでしたよね。継承権をもっているのはオーデンス伯爵家です。リュウールの継承式をはっきりさせないと其処を突かれる」
「リュウールは多分今年の水掛け祭りの女神に選出される。その後に継承式をして入城するのが流れだが、オーデンス城に篭っても暗部はやってくるなら何処かに出た方が良いか?」
「継承式は派手にした方が内外に公表できるでしょう。アレが8月8日の祭りで、それから考えて8月上旬ぐらいに公表して継承式は9月1日、オーデンス城への入場式は9月12日ぐらいかな。その後か…、アスラン王国に居ればギルの力は絶大だからアスラン王国から脱出させるなら、相手がキリアス公国なら腐っても大国のハーデン帝国が絶好の隠れ蓑になるでしょうね。ハーデン帝国大学の留学なら聴講生制度も充実している。ただ、警護隊を連れてと言うのは顰蹙を買うことになる。グランデール伯爵家にひとり良い人材いる。ルーカスさんともうひとりぐらい聴講生として潜り込ませれば」
「そう思うなら俺と一緒か、その線で考えておく」
「一緒ならよかった。具体的に決まれば連絡を入れてもらいたい。ハーデン帝国には俺が使える駒も多いので、お役に立てれると思います」
「ただ、お前がリュウールに手を出したとわかれば、暗部はお前を狙う可能性が出てくぞ、そうなると一度深く潜らないと上手くいかない。そこはしっかり計画しておかないとダメだろう」
「覚悟はしている。学園内での関係ならある程度は誤魔化せる」
「上手くやれ、何かあれば連絡をくれ」
「了解」
 トーマスは帰っていった。クラーブは、Ω接見禁止令が解ける事が嬉しくてたまらない。新学期からリュウールと再会する事を考えると浮きだつ気持ちを持て余していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

処理中です...