異世界転移した処女看護師と竜人公爵様の子作り契約婚

二位関りをん

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第48話 陰口はしんどいんですけど

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「これ……なんか書いてある?」

 さっき使ったドライヤーみたいな魔法道具の持ち手の部分の裏側になにやらカートリッジのようなものがあった。それに目を通してみると、使用済みシーツを入れるカートリッジと、新しいものを入れるカートリッジは別々にお使いください。と図が記されていた。文字も書いてあるけど読めない。
 当然お局はこんな事まで説明なんてしないよね! 腹立たしいがさっさと作業を済ませないとまた怒られるのが目に見えている。

「えっと、新しいシーツを入れるカートリッジは……この赤いやつがそうみたいね」

 使用済みシーツの入ったカートリッジを外して、次に赤いカートリッジを嵌める。そしてボタンを押して下シーツへと向けると下シーツがすっぽりと吸い込まれていった。

「で、あっちに向けたらいいわけね」

 ベッドに魔法道具を向けてボタンを押すと、口からシーツが出てきてベッドに吸い込まれていくようにして自動でベッドメイキングされた。

「おお! すごい便利!」

 その後はカートの奥にあった魔法道具の取扱説明書の図の部分を読みながら魔法道具を操作し、ベッドメイキングが完了した所でお局がまた部屋にやって来た。

「遅いわよ! さっさとして頂戴! この階全部なんだからね!」
「す、すみません!」

 すると部屋から出て行こうとしたお局の身体がぴたりと止まる。

「な、何これ!」

 もちろん、私は魔法が使えないので私の仕業ではない。その事はお局め理解しているようで、あれだけしわくちゃに歪んでいた顔が真っ青に染まっている。

「何よこれ……! まさか、悪魔の仕業!?」
「わ、私も身体が動かないわ! グスタフ公爵夫人は人間だからこんなの無理に決まっているし……!」

 この光景は、戦地に行く前にアルグレートがツォルグさんにかけた術と全く同じだった。という事はお局に術をかけたのはアルグレートで、アルグレートは水晶か何かを使って監視してるのかも?
 
「だ、誰か! 助けて!」

 とはいえ私は何にも出来ないので、たまたま近くの2階に繋がる階段にいたヤギの角と耳を持った衛生兵を呼んで、術を解いてもらえないか頼んだ後は、次の部屋に赴きベッドメイキングを行う。

「よいしょっと……」

 するとベッドメイキング中の部屋に若いカラスのような羽を生やした男の衛生兵が現れる。

「すまない! 負傷者が続々と運び込まれてきた! 悪いが手伝ってくれ!」
「えっ、あ、はい……!」

 お局には行かさないのか? と思って外に出たら、まだ彼女達は固まったまんまだった。これじゃあ私が行くよりほかは無いよね。
 彼の背中を追って階段を降りて1階に到着すると、そこには10人の兵士が血だらけになって運び込まれていた。自力歩行が可能な者が2名、他は担架が必要な者といった具合か。私はすぐさま担架を取り出して自力歩行ができない重傷者を乗せる。

「このまま処置室へと連れていけ! 魔法で止血する!」

 負傷者を乗せた担架は空飛ぶ箒のように宙へと浮いて、処置室へとふわふわ飛んでいった。その光景は魔法のおかげで元居た世界よりも技術発展しているように見えてしまう。
 ……これ、私いる意味あるかな? だって魔法の使えない人間だし……。

「ありがとう。彼らはひとまず処置担当の衛生兵が何とかするから、持ち場に戻っていいよ」
「はい、失礼します」

 こうしてありがとう。と言ってもらえるだけましか。
 3階に戻るとお局衛生兵達の姿は無くなっていた。術が解けてどこかへと移動したのだろう。さっさとベッドメイキングの続きをしなければ。

◇ ◇ ◇

「これで終わり!」

 ようやく全ての部屋のベッドメイキングが完了した。次は何をしないといけないのかなと考えているとお局達がタイミングよくこちらへとやってきた。

「あの、ベッドメイキング全て完了いたしました!」
「わかったわ、すぐにさっき搬送された負傷兵を収容するから、担架に乗せるのを手伝いなさい」
「はい!」

 さっき搬送された負傷兵……あの人達の事だろうか? 
 1階に降りると既に新たな負傷兵が運び込まれてきていてごった返している。

「うわ、すごい人達……」

 その瞬間、私の視界がぐるりと一回転する。世界が時計回りに回ったと知覚したのと、身体から力が急速に失われて地面に倒れこむのがほぼ同時だった。

「! グスタフ公爵夫人!」

 ぐるりと回った世界は、まだ回るのを止めてくれない。ぐるぐる回り続ける景色は徐々に黒さを増していき誰かが私を呼び続ける声が遠のくのを最後に、私の意識は途切れたのだった。

◇ ◇ ◇

「ここは……」

 目を覚ましたら、衛生兵長とお会いした衛生兵が待機する部屋の天井が目に飛び込んでくる。

「乙音、目が覚めた? でも急に動いちゃだめよ?」
「そうですよ。あなたはめまいで気を失いました。魔法によりめまいは取り除きましたが、再び発生するとも限りませんからね」

 右にアナスタシアさん、左に衛生兵長の顔が視界に映りこむ。どうやら私があおむけで寝ているのはソファのようだ。屋敷のベッドと比べると幾分硬いけど、まあ、これくらいなら全然気にはならない程度である。

「乙音、顔色悪いけど大丈夫?」
「あ……」
「お白湯持って来るわ、ちょっと待ってて」

 アナスタシアさんが退出した後、頭の中では倒れる寸前に見た景色が、また再生される。血の匂いとかそういうのには慣れているはずなのに、どうしてこうなったのか自分でも理解できない。
 いつの間にか衛生兵長がどこかへと去っていくと、部屋の奥ではひそひそと女性の話し声が聞こえてきた。

「やっぱり人間は使い勝手が悪いわよね」
「ねえ、グスタフ公爵夫人は倒れちゃったし。どうして陛下と将軍閣下は従軍をお許しになったのかしら」
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