異世界転移した処女看護師と竜人公爵様の子作り契約婚

二位関りをん

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第51話 励まし

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「え……?」
「君は十分役に立っている。そんな奴らの言葉など聞く必要も無い。ただの負け犬の遠吠えと理解すればいいのだ」
「負け犬の遠吠え……か……ふふっ」

 そういうと何だか胸に突き刺さっていた言葉達が全部抜け落ちてぱらぱらと床の下に落ちていった気がした。それに笑いも出て来る。

「君は素晴らしい衛生兵なのだから」
「あ、ありがとう……」
「それと、君にひどい事を言ってきた衛生兵は、即刻クビにして故郷へ帰るように衛生兵長へ先ほど進言してきた」
「え」

 彼女達がクビ。唐突な展開にアルグレートと衛生兵長を交互に見渡す事しかできなくて、しかも衛生兵長はにっこりと笑ったままだから余計に怖さを引き立たせている感がして、なんて声をかけたらいいのかわからなくなる。

「グスタフ公爵夫人。ご心配なく。先ほど私からも皆さんにはそのままお帰り頂くようにお伝えいたしましたから」
「え、そ、そうなんですか?」
「驚いていたり反論したりしていましたけど、グスタフ公爵がひと睨みしたら荷物をまとめて帰る準備をしてくださいました」

 だからあんなに賑やかだったのか。その理由が判明し、ちょっとだけざまあみろと思ったのと同時にアルグレートが如何に私を大事に思ってくれているかを改めて理解する。

「それで、その人達は……」
「今、馬車に乗って帰っている最中じゃないか? 衛生兵長、皆が俺の言う事をちゃんという事を聞いているかどうか確かめに行ってくれ」
「わかりました」

 私が落ち込んで動けなくなっている間にそんな事があったのか……。と、まだ現実を受け止めきれないでいる私の身体を、アルグレートが優しく抱きしめる。

「君を傷つけるやつはこの俺が許さない。そして君の頑張りは評価されるべきだ」

 彼の厳しさと私への優しさがつまった目線を貰うと、私の胸の中がじんわりと温かくなっていく。

「評価、されるべき……」
「俺の大事な番がこの野戦病院で頑張っているのだぞ? 評価されなければ俺も悲しい」

 彼の言葉が温かなお湯をかけるように、どんどん心を熱くそしてほぐしてくれているのがわかる。

「ありがとう……頑張れるよ」

 彼の優しさが、本当に助かるし、ありがたい。ここまでしてくれるなんて思ってもみなかったから、驚いているけどそれ以上に彼が私へ見せてくれた愛がとても嬉しかった。

◇ ◇ ◇

 嫌味を言っていたりしていたお局やベテラン衛生兵達はアルグレートと衛生兵長の指示により馬車で故郷へと強制送還された事で、明日代わりの者達が派遣されると聞いた。

「あなた達。確かに人間は魔法が使えません。だからといって足手まといとか、そう考えるのは違います。人間には人間しか出来ない事もあるのです」
「あと、我が大事な番に手を出したり傷つける者は俺が必ず排除する。覚悟は良いな?」
「もちろん、私の大事なアナスタシアを傷つけた者も同罪です。よろしいですね?」

 一旦作戦が停止された事で静かになった深夜にアルグレートと衛生兵長、そしれアルグレートが呼んできたサファイア所長が残った衛生兵全てをかき集めてそう説明してくれた。

「は、はい!」

 眉間にこれでもかというくらいしわを寄せ、ぎらついた眼光を見せるアルグレートとにこやかに口元をほころばせ、目を細めるサファイア所長の背後からは禍々しいオーラが醸し出されていた。
 それに気が付いた衛生兵達はひっ……とか細く小さな悲鳴を上げているのが止まらないみたいで、メイドが以前アルグレートを冷酷公爵と言っていたのを思い出す。
 ちなみに当のアナスタシアさんはくすっと笑っていた。

「そんなやつは喧嘩か仕事でわからせるかすればいいのよ、ねえ、乙音?」
「は、はい……」

 本音としては殴ってしまいたいけど、ここは穏便に仕事でわからせなければ、だよね……。ていうか思ったよりアナスタシアさん血の気が多いな?
 次の日の朝。再び戦地へ赴くアルグレートとサファイア所長をアナスタシアさんと共に見送った後は収容者へと朝食を配るのを開始する。

「グスタフ公爵夫人様、毎度ありがとうございます。こうして自ら配ってくださるのはとても嬉しいです」
「魔法で配った方が時間はかからないけど、やっぱりこうして声かけてくれた方が心が落ち着くよ」

 こういう声は嬉しい限りだ。これまで以上に大切に胸の中にしまっておかないと。別の部屋にさっき搬送されたばかりの女性の兵士にも声をかけつつ夕食を渡すと、ベッドに座った彼女は嬉しいです。と答えてくれた。
 彼女の左足には大きなギプスが巻かれている。悪魔に噛みつかれ、切断寸前までダメージを負ったそうだ。

「グスタフ公爵夫人様、あなたも従軍されていらっしゃるなんて驚きです」
「そ、そうですか? みんなが頑張っている中で私だけ何もしないのもどうかと思ったので……」
「それが素晴らしいお考えだと思うのですよ。貴族の奥方やご令嬢はこういった戦いにはまず顔を出したりしません。次女や三女といった長女じゃないご令嬢や、妾の子なんかはよくいますけど」

 ちなみにこの女性の兵士も男爵家の妾の子だと教えてくれた。成人してからすぐ兵士となり、あちこちで作戦に従軍していると言う。

「ここが一番楽なんです。いじわるな人もいないから」
「そうなんですか……」
「それにここでは身分の違いはあまり問われたりしませんからね。士官との上下関係はありますけど、それも10年くらい前と比べると、大分緩くなったと聞きました」

 最後に彼女はまた怪我が癒えたら戦地に戻りますが、あなたの事は忘れませんと穏やかな笑顔と目元をしたまま語ってくれた。

「ありがとうございます……!」

 彼らからの言葉を大事に胸に刻み込みながら、カートと共に厨房へと戻っていると、アナスタシアさんとすれ違った。

「乙音、朝食配るの終わったんだ」
「はい、終わりました」
「なんだか、顔が良い感じだね」
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